従業員が数名、売上が数千万円から1億円台。日本の会社の多くは、この規模に含まれます。こうした小規模な会社でも、事業承継で考えるべきことは大企業と変わりません。むしろ、経営者が一人で何もかも担っている分、引き継ぎの難しさは大きいとさえいえます。一方で、使える時間も費用も限られています。本稿では、小規模企業の事業承継を、限られた資源の中でどう進めるかという観点から整理します。

規模が小さくても、論点は同じ

小規模企業の承継でも、確認すべき論点は変わりません。後継者がいるか、株式は誰が持っているか、個人保証はどうなっているか、会社と個人の資産は分かれているか。規模が小さいからといって、これらが不要になるわけではありません。

むしろ、小規模企業には特有の難しさがあります。

  • 属人性が高い:営業も現場も経理も経営者が担っており、代わる人がいない
  • 資料が整っていない:契約書がない、業務の手順が文書化されていない
  • 専門家への相談が限られる:顧問税理士はいても、承継の相談まで手が回らないことがある
  • 時間の余裕がない:経営者が日々の業務に追われ、準備に充てる時間が取れない

とくに1番目は、承継の成否を左右します。経営者がいなくなったときに事業が回らない状態では、誰に引き継ぐにしても引き継げるものが限られてしまいます。

優先順位をつける|限られた時間で何をやるか

すべてを完璧に整えることは現実的ではありません。効果の大きいものから順に手をつけます。おすすめの順序は次のとおりです。

優先度やること理由
1株主名簿の確認誰が株主かが不明確だと、どの承継方法も進まない
2個人保証と担保の確認後継者の判断を左右する。整理には時間がかかる
3会社と個人の資産の切り分け相続でも譲渡でも必ず論点になる
4業務の可視化経営者の頭の中にある情報を、引き継げる形にする
5決算書の整理実態が読める数字にする。時間はかかるが効果は大きい

4番目の業務の可視化は、費用をかけずに始められる取り組みです。取引先ごとの経緯、価格の決め方、仕入先との関係、繁忙期の段取り。こうした情報を書き出しておくだけで、引き継ぎの負担は大きく変わります。

会社と個人の資産の切り分けについては「会社と個人の不動産が混ざっているとき」と「役員借入金の整理」で、それぞれ具体的に扱っています。

公的な支援を使う

小規模企業の承継では、公的な支援制度を活用する意味が大きくなります。主なものを挙げます。

事業承継・引継ぎ支援センター

各都道府県に設置されている公的な相談窓口です。承継に関する相談を無料で受け付けており、後継者不在の会社と譲受候補とのマッチング支援も行っています。まず相談してみる先として適しています。

後継者人材バンク

創業を希望する個人と、後継者を探している会社をつなぐ仕組みです。小規模な事業では、企業ではなく個人が引き継ぐ形が現実的な選択肢になることもあります。詳細は「後継者人材バンクとは」をご覧ください。

事業承継・M&A補助金

事業承継やM&Aに伴う費用の一部を補助する制度です。公募の時期や要件は年度によって変わりますので、最新の内容は公募要領でご確認ください。制度の概要は「事業承継・M&A補助金とは」で解説しています。

商工会・商工会議所、よろず支援拠点

身近な相談先として活用できます。承継の入り口として、現状の整理を手伝ってもらうことができます。

第三者承継を検討する場合

親族にも社内にも後継者がいない場合、第三者への譲渡が選択肢になります。小規模な会社は買い手が見つからないのではないかと懸念される方もいらっしゃいますが、必ずしもそうとは限りません。

小規模な事業でも、買い手にとって次のような価値があることがあります。

  • 許認可を持っている(建設業、運送業、産業廃棄物処理、飲食など)
  • 特定の地域に根ざした顧客基盤がある
  • 有資格者や熟練の従業員が在籍している
  • 好立地の店舗や、確保が難しい設備がある
  • 同業が規模を広げたい地域にある

買い手の候補も、企業だけとは限りません。近年は個人が事業を買う形も広がっており、小規模な事業ほど個人が引き継ぐ現実性が高くなります。

ただし、規模が小さいほど「社長がいなくても回るか」が問われます。経営者が全部を担っている状態のままでは、引き継ぐ側にとってのリスクが大きくなるためです。この点でも、業務の可視化は効いてきます。スモールM&Aの進め方は「スモールM&Aとは」もご参照ください。

費用をどう考えるか

小規模企業の承継では、かけられる費用に限りがあります。何にお金を使うかの判断が必要です。

費用をかけずにできることから挙げます。株主名簿の確認、登記事項証明書の取得、業務の書き出し、公的窓口への相談。これらはほとんど費用をかけずに進められます。

一方、費用が必要になるのは、株式の評価、遺言の作成、契約書の整備、登記の手続き、そして第三者承継を進める場合の仲介手数料です。このうち、株式の評価と税務の設計は顧問税理士に、遺言や契約は弁護士に依頼することになります。

第三者承継の費用については、仲介会社によって体系が異なります。当社の場合、相談料・着手金・月額報酬はいただかず、成功報酬型としています。基準額(株式価値+負債総額)に応じたレーマン方式で、最低報酬額は2,000万円(税別)です。詳細は料金体系のページでご確認ください。規模によっては最低報酬額が相対的に重くなる場合もありますので、初回のご相談で率直にお伝えしています。小規模案件の費用の考え方は「小規模案件の費用をどう考えるか」でも整理しています。

まとめ|小さいからこそ、早く動く

小規模企業の承継は、規模が小さいから簡単というものではありません。属人性が高く、資料が整っておらず、準備に充てる時間も限られる——むしろ難しさは大きいといえます。

だからこそ、早く動くことの価値が大きくなります。業務の可視化にも、個人保証の整理にも、後継者探しにも時間がかかります。経営者ご自身が元気に働けるうちに着手できるかどうかが分かれ目です。

まずは費用のかからないところから始めてください。株主名簿を確認し、借入と保証の状況を書き出し、公的な窓口に相談する。それだけでも、次に何をすべきかが見えてきます。当社でも、規模にかかわらず初回のご相談は無料で承っています。事業承継をお考えの方へのご案内もご参照ください。

よくあるご質問

A.規模が小さくても、許認可、地域の顧客基盤、有資格者、好立地の店舗といった価値があれば、引き継ぎたいと考える相手は存在します。近年は個人が事業を買う形も広がっており、小規模な事業ほど個人が引き継ぐ現実性が高くなります。ただし、経営者が全部を担っている状態のままでは引き継ぐ側のリスクが大きいため、業務の可視化が鍵になります。
A.あります。株主名簿の確認、不動産の登記事項証明書の取得、借入と個人保証の状況の書き出し、業務手順や取引先ごとの経緯の文書化。これらはほとんど費用をかけずに進められ、しかも効果が大きい取り組みです。あわせて、事業承継・引継ぎ支援センターや商工会議所などの公的窓口では無料で相談を受けられます。
A.各都道府県の事業承継・引継ぎ支援センターでは、承継の相談やマッチングの支援を無料で受けられます。創業希望者と会社をつなぐ後継者人材バンクという仕組みもあります。費用面では事業承継・M&A補助金があり、承継やM&Aに伴う費用の一部が補助されます。公募の時期と要件は年度によって変わりますので、最新の公募要領をご確認ください。
本稿の税務・法務に関する記載は2026年9月時点の制度に基づく一般的な解説です。税務の具体的な適用は税理士に、法務の判断は弁護士にご確認ください。

Free Consultation

規模にかかわらず、まずはご相談ください。

現在地の整理と、取り得る選択肢のご説明から承ります。
メール(info@platinumpartners.jp)でも承ります。

無料相談を申し込む

Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら