工場の建つ土地が社長個人の名義である。本社ビルは会社所有だが、駐車場だけ個人の土地を使っている。社宅として使っている物件が経営者個人の所有になっている——中小企業では、会社と個人の不動産が混ざっている状態がしばしば見られます。日常の経営に支障がないため長年そのままにされがちですが、承継の場面では必ず論点になります。本稿では、混在が問題になる理由と、承継前にどう整理するかを整理します。

なぜ会社と個人の不動産が混ざるのか

混在が生じる経緯は、おおむね次のとおりです。

  • 創業時、会社に資金がなかったため、経営者個人が土地を購入して会社に貸した
  • 相続で取得した個人の土地に、会社の建物を建てた
  • 金融機関からの借入が個人名義のほうが通りやすかった
  • 税務上の判断で、あえて個人が保有する形にした

いずれも当時としては合理的な判断だったはずです。問題は、その状態が何十年も続き、当初の経緯を知る人が少なくなったまま承継の時期を迎えることにあります。

また、賃貸借契約が結ばれていない、あるいは契約書はあっても実際の賃料の授受と内容が一致していないというケースも多く見られます。当事者が同一人物に近い関係だったために、形式が整えられてこなかったのです。

混在が承継で問題になる場面

会社と個人の不動産が混ざっていることは、次の場面で具体的な問題になります。

1. 相続が発生したとき

個人名義の不動産は、経営者の相続財産です。遺言がなければ遺産分割協議の対象となり、後継者以外の相続人が取得する可能性があります。会社の事業に不可欠な土地が、経営に関与しない親族の所有になるという事態も起こり得ます。

2. 経営者保証の見直しを求めるとき

経営者保証に関するガイドラインでは、法人と経営者個人の資産・経理が明確に分離されていることが、保証の見直しを検討する前提のひとつとされています。不動産の混在は、この分離が不十分と評価される要因になり得ます。保証の整理については「個人保証を後継者に引き継ぐか」をご覧ください。

3. 第三者へ譲渡するとき

M&Aでは、事業に不可欠な不動産が譲渡対象に含まれないと、買い手にとって大きな不確実性となります。譲渡後も安定して使い続けられるのか、賃料はどうなるのかが交渉の論点になります。

4. 会社が借入をするとき

個人名義の不動産を担保に入れている場合、その関係も整理の対象です。担保に入っている状態のまま相続が発生すると、権利関係が複雑になります。

まず確認すること

整理を検討する前に、現状を正確に把握する必要があります。確認すべき項目を挙げます。

確認項目見るもの
所有者登記事項証明書。名義が誰か、共有者はいるか
担保抵当権・根抵当権の設定状況と被担保債権
契約賃貸借契約書の有無と内容。使用貸借になっていないか
賃料実際に授受されている金額と、契約書の記載の一致
会計処理会社の帳簿にどう計上されているか
事業上の重要性その不動産がなければ事業が成り立たないか

とくに3番目と4番目は要注意です。無償で貸している(使用貸借)状態や、契約書の賃料と実際の授受額が異なる状態は、税務上の論点を生じ得ます。個人が会社に不動産を貸している場合の適正な賃料水準を含め、税理士にご確認ください。

6番目の事業上の重要性は、整理の優先順位を決める基準になります。事業に不可欠な不動産ほど、早く整理すべきです。

整理の選択肢

整理の方法は、大きく次の4つです。

1. 会社が買い取る

個人名義の不動産を会社が購入し、所有を一本化する方法です。もっともすっきりしますが、会社に購入資金が必要になり、経営者側には譲渡益への課税が生じ得ます。また、購入価格が適正でなければ税務上の問題を招きます。

2. 賃貸借契約を整備する

所有関係はそのままに、契約書を整え、適正な賃料で継続的に貸す形にする方法です。費用負担は小さいものの、相続時の問題は残ります。後継者が確実に取得できるよう、遺言などの備えが別途必要です。

3. 後継者へ移転する

個人名義のまま、後継者に贈与または売買で移す方法です。株式と不動産をセットで後継者に集めることで、承継後の安定につながります。ただし、他の相続人との公平の問題が生じ得ます。「兄弟間の承継」もあわせてご覧ください。

4. 事業に使わないものは切り離す

事業に使っていない不動産まで会社が保有している場合は、逆に切り離す整理も検討されます。会社が保有する不動産の扱いについては「不動産を持つ会社の売却」で解説しています。

いずれの方法にも税務上の検討が伴います。売買価格の妥当性、譲渡益への課税、贈与税の負担、消費税の取り扱いなど、確認すべき点が多くあります。具体的な適用は税理士に、契約の内容は弁護士にご確認ください。

第三者へ譲渡する場合の扱い

M&Aで会社を譲渡する場合、事業に使っている個人名義の不動産をどうするかは、必ず交渉の論点になります。実務上の選択肢は次のとおりです。

  • 譲渡前に会社が買い取る:所有を一本化してから譲渡する。買い手にとって最も分かりやすい形
  • 譲渡と同時に買い手または会社へ売却する:株式譲渡と不動産の売買を同じタイミングで行う
  • 賃貸借を継続する:譲渡後も個人が貸し続ける。契約期間・賃料・更新条件を明確にしておく必要がある

3番目を選ぶ場合、買い手は「将来、賃貸借が終了したら事業を続けられなくなるのではないか」という懸念を持ちます。契約期間の長さや解約条件の設計が、譲渡条件そのものに影響することもあります。

いずれにせよ、こうした論点は買い手側の調査で必ず明らかになります。譲渡の検討を始める前に、自社で先に整理しておくほうが、交渉を有利に進められます。

まとめ|整理には時間がかかることを前提に

会社と個人の不動産の混在は、日常の経営では表面化しません。しかし、相続、保証の見直し、第三者への譲渡という、承継に関わるあらゆる場面で論点になります。

そして、整理には時間がかかります。資金の手当て、税務の検討、担保の解除、相続人との調整——いずれも数か月から年単位を要することが珍しくありません。承継の話が具体化してから着手するのでは間に合わないことが多いのです。

まずは登記事項証明書を取り寄せ、現状を一覧にするところから始めてください。それだけでも、整理すべき論点が見えてきます。当社では、初回のご相談で不動産の保有状況を必ずお伺いしています。事業承継をお考えの方へのご案内もご参照ください。

よくあるご質問

A.日常の経営に支障はなくても、相続時に土地が後継者以外の相続人に渡る可能性がある点、経営者保証の見直しで法人と個人の分離が不十分と見られる可能性がある点、第三者へ譲渡する際に交渉の論点になる点で問題になり得ます。まず賃貸借契約の有無と内容、担保の設定状況を確認することから始めてください。
A.無償で貸す使用貸借の状態は、税務上の論点を生じ得ます。また、権利関係が弱いため、相続で所有者が変わった際に会社が使い続けられる保証がありません。適正な賃料での賃貸借契約に切り替える、会社が買い取る、後継者へ移転するといった整理を検討してください。具体的な取り扱いは税理士にご確認ください。
A.著しく高い価格や低い価格での売買は、税務上の問題を招くおそれがあります。不動産の時価を客観的に示せる資料(不動産鑑定評価、公的な評価額など)をもとに設定することが一般的です。譲渡益への課税、消費税の取り扱いも含め、事前に税理士とご相談のうえで進めてください。
本稿の税務・法務に関する記載は2026年9月時点の制度に基づく一般的な解説です。税務の具体的な適用は税理士に、法務の判断は弁護士にご確認ください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら