経営者に相続が起きたとき、会社にとって最も重い問題は、相続税そのものよりも「株主が決まらない期間」が生じることです。遺言がなく、相続人の間で話がまとまらないと、自社株は分割が終わるまで相続人全員の共有状態に置かれます。この間、会社の意思決定は事実上止まります。

本稿では、未分割の期間に何が止まるのか、税務の面では何が起きるのか、そして生前に何を決めておけば止まらずに済むのかを、M&A仲介の立場から整理します。

※ 本稿は一般的な制度の考え方をご紹介するものであり、個別の法務・税務アドバイスではありません(記載は2026年8月時点の制度に基づきます)。特例の適用可否や手続きの期限は状況によって異なります。具体的な取り扱いは顧問税理士・弁護士にご確認ください。

分割が終わるまで、株式は相続人全員のもの

預金のように金額で分けられる財産と違い、株式は分割が終わるまで相続人全員が共同で持っている状態になります。「法定相続分どおりに自動的に分かれる」わけではないというのが、実務上の重要な出発点です。

この状態では、株主としての権利を行使するために、相続人の間で権利を行使する者を一人定め、会社に通知する必要があります。全員の合意が前提ですから、関係がこじれている場合には、この一歩目から進みません。

会社側から見ると、「株主名簿には亡くなった先代の名前が残っているが、誰が意思決定するのか分からない」という状態が続きます。日々の営業は動いても、株主総会を必要とする決定だけが止まる——これが未分割の典型的な姿です。

具体的に何が止まるのか

止まるのは、株主の意思が必要な事項です。会社の規模にかかわらず、次のような場面で支障が出ます。

場面未分割だと何が起きるか
役員の選任・重任任期が来ても選任決議ができず、登記が滞ることがある
決算の承認定時株主総会の運営に支障が出る
金融機関との取引経営体制が固まらないことを理由に、新規融資の判断が保留されやすい
M&Aの検討・実行株式を売る主体が定まらず、交渉も契約もできない
重要な投資判断経営陣が決めきれず、設備投資や採用が後ろ倒しになる

特に深刻なのが最後の二つです。会社の価値は、待っている間も動きます。主要取引先との関係、人材の定着、設備の更新——止まっている間に少しずつ失われるものは、分割がまとまってからでは取り戻せません。「争っている期間そのものが、会社の価値を削る」という点は、相続人の方々にお伝えしたい事実です。

税務の面で起きること|期限は待ってくれない

遺産分割が長引いても、相続税の申告期限は動きません。分割が決まっていない場合でも、いったん法定相続分で取得したものとして申告し、納税する必要があります。納税資金は現金で必要になりますが、自社株は換金できませんので、相続人の手元資金で立て替える形になりがちです。

さらに、未分割のままでは適用できない特例があります。期限内に所定の書類を提出しておかないと、後から分割が決まっても使えなくなるものもあります。どの特例がこれに当たるか、いつまでに何を出す必要があるかは、状況によって異なりますので、必ず顧問税理士にご確認ください

また、相続した株式を売却する場合に検討される取得費加算の特例にも期限があります。分割の長期化でこの期限を過ぎてしまうと、選べたはずの選択肢が消えます。詳しくは「相続直後に会社を売る場合の税務|取得費加算の特例と期限」をご覧ください。

つまり未分割は、経営が止まるだけでなく、税務上の選択肢も時間とともに減っていく状態だということです。

買い手から見た「株主が固まっていない会社」

仮に分割が長引いたまま、相続人の総意としてM&Aを検討することになった場合、買い手はどう見るでしょうか。

買い手が最も避けたいのは、買ったあとに「自分は売るとは言っていない」と主張する株主が出てくることです。したがって、デューデリジェンスでは株主名簿と実態の一致が必ず確認され、契約では全株主の売却意思が前提条件になります。未分割の株式が残っていれば、クロージングまでに解消することが取引の条件になるのが通常です。

相続以外の理由で株式が分散している場合の整理については「株式が分散している会社の売却|名義株・少数株主の整理方法」で扱っています。相続で分散した株式を集約するときの税金は「相続で分散した自社株を集約するときの税金|買い取り方による違い」をご参照ください。

「買い手が見つかってから整理すればよい」と考えると、交渉と並行して相続人の合意を取り付けることになり、時間的な余裕がありません。整理は、買い手探索より前に着手するのが安全です。

止めないために、生前に決めておくこと

未分割の問題は、起きてから対処するより、起きないようにするほうがはるかに容易です。生前にできることを挙げます。

  • 遺言で自社株の行き先を決めておく:最も効果が大きい対策です。株式を誰が取得するかが決まっていれば、共有状態そのものが生じません。
  • 後継者以外の相続人への配慮をあわせて設計する:株式を一人に集めると、他の相続人との公平が問題になります。遺留分の論点は「遺留分と自社株|後継者に集中させたときに起きること」で整理しています。
  • 定款の規定を確認する:相続で株式を取得した者に対する売渡請求の定めなど、会社側で使える仕組みがあります。内容と運用は弁護士にご確認ください。
  • 生前に株式を集約しておく:贈与や譲渡によって、あらかじめ後継者に移しておく方法です。「自社株を生前贈与するか、譲渡するか|税負担と承継の視点で比べる」もご参照ください。
  • 後継者がいないなら、元気なうちに出口を決める:承継先がないまま相続が起きると、相続人は「経営もできず、売ることもできない株式」を抱えることになります。

当社へのご相談でも、「まだ先の話」とお考えの場合があります。しかし、株主が決まらない期間は会社にとって最も脆い時間です。決めておく、というだけで防げる問題であることを、まずお伝えしています。

まとめ|決まっていないことが、いちばんの損失になる

自社株が未分割のままだと、議決権の行使に制約がかかり、役員選任も金融機関との交渉もM&Aの判断も進みません。相続税の申告期限は待ってくれず、未分割では使えない特例や、期限を過ぎると選べなくなる特例もあります。

そして最も見えにくい損失は、止まっている間に会社の価値が落ちることです。取引先も従業員も、決まらない会社を長くは待ちません。

対策は、遺言・定款の整備・生前の集約・出口の決定と、いずれも生前にしかできないものばかりです。当社では、後継者の有無を含めて承継の選択肢を整理するところからご相談をお受けしています。税務・法務の具体的な取り扱いは、顧問税理士・弁護士にご確認ください。

よくあるご質問

A.開くことはできますが、共有状態の株式については権利を行使する者を定めて会社に通知する必要があります。相続人の合意が得られない場合、議決権の行使に支障が出ます。具体的な進め方は弁護士にご確認ください。
A.株式を売る主体が定まらないため、実務上は進められません。買い手は全株主の売却意思を前提条件にしますので、クロージングまでに解消することが求められます。
A.申告期限は動きませんので、いったん法定相続分で取得したものとして申告するのが基本です。未分割では使えない特例や、期限内の書類提出が必要なものもありますので、必ず顧問税理士にご確認ください。
A.自社株の行き先を決めることが最優先です。遺言の作成、定款の確認、生前の集約という順で検討するのが一般的です。後継者が決まっていない場合は、第三者への譲渡という出口も含めて早めにご相談ください。

Free Consultation

「決まっていない株」を、止まる前に整理しませんか。

相談料・着手金・月額報酬は0円です。基本合意時の中間金と成功報酬については料金体系をご覧ください。税務・法務は専門家と連携して進めます。
メール(info@platinumpartners.jp)でも承ります(2営業日以内にご返信)。

無料相談を申し込む

Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら