会社を閉じて手元にお金が残るまでには、2段の課税があります。

1段目は会社の段階です。資産を売って現金に換えると、売却益が出れば法人税の対象になります。2段目は個人の段階です。残った財産を株主に分配すると、株主の側で課税されます。

この2段を知らずに「資産を売って借金を返せば残りが手元に来る」と考えると、見込みが大きくずれます。廃業と譲渡を比べるときに、この計算が必要になります。

会社の段階 — 資産を売ると益が出る

清算では、資産を現金に換えていきます。不動産、設備、在庫、有価証券、保険の解約返戻金。

このとき、帳簿の価額より高く売れれば売却益が出ます。特に起きやすいのは不動産です。何十年前に取得した土地は、帳簿では取得価額のままで、時価が大きく上回ることがあります。

売却益は、その事業年度の所得に算入されます。赤字が続いていた会社でも、不動産を売った年に大きな黒字が出て税金が生じることがあります。

ここで効くのが繰越欠損金です。過去の赤字が残っていれば、売却益と相殺できる可能性があります。ただし期限があり、使える範囲にも定めがあります。

また、清算の事業年度には特別な取扱いが設けられている部分があります。残余財産がないと見込まれる場合の、期限切れの欠損金の損金算入といった制度です。要件があるため、適用できるかは個別の判断になります。

したがって、資産を売る順序とタイミングで税額が変わることがあります。先に税理士と計算してから動くことになります。

消費税も見落とせない

資産を売るときには消費税の論点が出ます。

建物の売却は課税の対象になります(土地は非課税)。設備、車、在庫の売却も課税されます。清算の年に資産を多く売ると、消費税の納税額が大きくなることがあります。

ここで問題になるのは資金の順序です。消費税は預かったお金を納めるものですが、売却代金を先に債務の返済に充ててしまうと、納税の資金が残りません。

加えて、課税売上割合の論点があります。土地の売却のように非課税の売上が大きいと、仕入税額控除の計算に影響します。思っていた控除が取れないことがあります。

したがって、清算では①売却の計画 ②法人税の見込み ③消費税の見込み ④債務の返済 の順に並べる必要があります。④を先にやると、①〜③の資金が足りなくなります。

個人の段階 — みなし配当と譲渡所得に分かれる

会社の清算が終わり、残った財産を株主に分配します。ここで株主の側に課税が生じます。

分配される金額は、税務上2つに分けて考えます。

資本金等の額に対応する部分。出資した元本の払い戻しに相当する部分です。これは株式の譲渡として扱われ、取得費との差が譲渡所得になります。

それを超える部分。利益の蓄積から出ている部分で、みなし配当として扱われます。

この区分が重要なのは、税率が違うからです。株式の譲渡益は申告分離課税で、所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%の合計20.315%です(2026年8月時点)。一方、配当所得は総合課税となり、他の所得と合算して累進の税率が適用される形になります(配当控除の適用など別の論点もあります)。

利益を長年蓄積してきた会社では、みなし配当の部分が大きくなります。その結果、株式を譲渡する場合と比べて税負担が重くなることがあります。

だから「売る」と「閉じる」で手取りが変わる

ここが、廃業と譲渡を比べるときの核心です。

株式を譲渡する場合。個人株主が株式を売り、譲渡益に20.315%が課されます。1段です。

会社を清算する場合。会社の段階で法人税と消費税、個人の段階でみなし配当と譲渡所得。2段です。

同じ会社でも、手元に残る金額が変わります。さらに、清算では資産を個別に処分するため、事業として渡す場合より売却価額が下がりやすくなります。

一方で、清算のほうが有利になる場合もあります。不動産の含み益が小さく、繰越欠損金が多く、事業の収益が小さい会社では、処分して分配するほうが残ることがあります。

どちらが有利かは、必ず自社の数字で計算する必要があります。一般論では決まりません。資産の構成、含み益、欠損金、株主の他の所得。これらを入れて、両方の手取りを並べます。

役員退職金という変数

もう1つの変数が、役員退職金です。清算の前に経営者に退職金を支給すると、会社の所得が減り、個人の側では退職所得として課税されます。

退職所得は、勤続年数に応じた控除があり、課税の対象となる金額が抑えられる仕組みです。したがって、分配として受け取るより税負担が軽くなる場面があります。

ただし、金額が過大と判断されれば損金に算入されません。役員退職金の適正額には判断の基準があり、同規模の会社の水準や勤続年数、功績倍率などが考慮されます。

また、退職の事実が必要です。形だけ退職して実質的に経営を続けていると、認められないことがあります。

この設計は、譲渡の場面でも同じように出てきます。譲渡の対価と退職金の配分という論点です。どちらの場面でも、税理士と計算してから決める部分になります。

順序を整理する

清算を検討する場合の順序を整理します。

1. 資産の時価を把握する。不動産、設備、在庫、保険。帳簿価額との差を出します。

2. 債務と保証を把握する。借入、買掛金、未払い、個人保証。

3. 税の見込みを出す。会社の段階(法人税・消費税)と個人の段階(みなし配当・譲渡所得)。繰越欠損金と退職金の効果も入れます。

4. 清算の費用を出す。登記、公告、専門家報酬、設備の処分、原状回復、従業員への支払い。

5. 手元に残る金額を出す。

6. 譲渡した場合の手取りと並べる。

6まで並べてから決めるのが、後悔の少ない順序です。1〜5だけで決めると、比べる相手がいません。

税務の扱いは制度の改正と個別の事情で結論が変わります。実際の計算は必ず税理士に確認してください。

よくあるご質問

A.2段あります。会社の段階では資産の売却益に法人税、資産の売却に消費税がかかります。個人の段階では、残余財産の分配がみなし配当と株式の譲渡に分けて課税されます。
A.残余財産の分配のうち、資本金等の額に対応する部分を超える金額です。利益の蓄積から出ている部分にあたり、配当所得として総合課税の対象になります。株式の譲渡益の分離課税とは税率の仕組みが違います。
A.会社によって違います。清算は2段の課税があり、資産を個別に処分するため売却価額も下がりやすくなります。一方、含み益が小さく繰越欠損金が多い会社では清算が有利になることもあります。自社の数字で両方を計算してください。
A.退職所得には勤続年数に応じた控除があるため、軽くなる場面があります。ただし金額が過大と判断されれば損金に算入されず、退職の事実も必要です。税理士と計算してから決めてください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役副社長。中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら