「議事録は作っていません」。中小企業では珍しくない状態です。デューデリジェンスで必ず指摘されます。どこまで、どう整えるべきかを整理します。
なぜ問題になるのか
買い手が議事録を確認する理由は2つです。
① その決議が有効に行われたかを確かめるため。役員の選任、重要な財産の処分、多額の借財。手続きを欠いていれば、決議や行為の効力が争われる余地が残ります。
② 会社の管理の質を見るため。議事録が無い会社は、他の記録も無いことが多い。
会社法上、株主総会や取締役会の議事録の作成と一定期間の備置きが求められています。「作っていない」は、それ自体が指摘の対象です。
遡って作れるのか
率直に整理します。過去の日付で議事録を作成することには、慎重であるべきです。
実際に会議が開催され、決議がなされていたのであれば、その事実を記録として文書化することは考えられます。
しかし、開催されていない会議の議事録を作るのは、事実と異なる文書を作ることになります。これは別の問題を生みます。
どこまでが許される整理で、どこからが問題なのか。この線引きは、必ず弁護士に確認してください。自己判断で遡って作成しないでください。
優先して確認すべき決議
すべてを遡るのは現実的ではありません。影響の大きいものから確認してください。
① 役員の選任・退任。登記されているため、登記事項証明書と突き合わせられます。登記があるのに議事録が無いのが典型です。
② 定款の変更。同様に登記事項と照合されます。
③ 株式の譲渡承認。譲渡制限のある会社で、過去の株主の異動が承認を経ているか。
④ 重要な財産の処分、多額の借財。不動産の売買、大型の設備投資、借入。
⑤ 役員報酬の決定。税務上も論点になります。
登記と一致しているかを見る
実務で最も確実な確認方法です。登記事項証明書を取得し、履歴事項を全部確認してください。
役員の就任・退任の日付、資本金の変動、目的の変更、本店の移転。
これらには必ず対応する決議があるはずです。議事録が無ければ、その事実を確認できる別の資料(当時の司法書士の記録、税理士の資料)を探してください。
司法書士に依頼していれば、事務所に控えが残っていることがあります。これは有力です。
役員報酬の決議は税務でも見られる
とくに注意すべき点です。役員報酬の額は、株主総会の決議または定款で定めることとされています。
議事録が無い場合、税務調査で損金算入が否認されるおそれがあるという指摘を受けることがあります。
また、役員退職金を支給する場合も、株主総会の決議が必要です。M&Aの場面では退職金の支給が組み合わされることが多く、ここで議事録が無いと問題になります。
税理士に確認し、今後の分から確実に作成してください。
株主の異動の経緯を確認する
議事録と併せて確認すべき点です。過去に株式が動いているか。
法人税申告書の別表二を数期分並べると、株主構成の変化が見えます。
変化があるのに、譲渡の契約書も承認の議事録も無い——これは買い手にとって重大な懸念です。現在の株主が適法に株式を保有しているかが確認できないためです。
相続で動いている場合は、遺産分割協議書を確認します。
ここが整理できないと、取引そのものが成立しません。早く着手してください。
今後の運用を整える
過去の整理と並行して、これからの分を確実にすることが重要です。
年1回の定時株主総会。決算の承認、役員報酬、任期満了に伴う役員の選任。
取締役会設置会社なら、定期的な取締役会。会社法上、代表取締役等は3か月に1回以上、職務の執行の状況を取締役会に報告することとされています。
ひな型を作って、毎回同じ様式で残す。顧問税理士や司法書士に、ひな型を用意してもらってください。
整えた運用が1〜2年続けば、「最近は管理されている」と評価されます。
買い手にどう説明するか
隠さないことが最善です。
「過去の議事録は一部しか残っていません。登記事項と突き合わせて確認できる範囲を整理しました」と、正直に伝えてください。
そのうえで、整理した一覧を出します。いつの、何の決議について、資料があるか無いか。
無いことより、把握していないことのほうが問題視されます。
買い手としては、リスクの大きさが分かれば、表明保証や補償で受け止められます。分からないものは、価格を下げるか、取引を見送るかの判断になります。
契約でどう扱うか
最終契約での手当てです。
表明保証。「会社法その他の法令および定款に従って、必要な機関決定を行っている」といった条項が入ることがあります。
議事録が整っていない会社では、この表明を無条件で行うことに慎重であるべきです。事実と異なる表明は、後の補償請求につながります。
実務では、別紙で例外を明示するという方法が取られます。「ただし、別紙に記載した事項を除く」と書き、把握している不備を列挙する。
正直に開示したものは、補償の対象から外れるのが通常です。これが、開示することの実利です。