返事が来ない。条件が詰まらない。話が同じところを回る。交渉は、思ったほど滑らかには進みません。止まったときに何をするかを整理します。
止まる原因の型
まず、原因を分類してください。打つ手が変わります。
① 相手の社内で決まらない。稟議が通らない、意見が割れている。最も多い型です。
② 条件で折り合わない。価格、雇用、引き継ぎ期間。
③ 情報が足りない。相手が判断できる材料を持っていない。
④ 優先順位が下がった。他の案件や本業の事情。
⑤ 降りたいが言い出せない。断るのが気まずく、返事を先延ばしにしている。
⑤が最も時間を失います。そして、外からは①と区別がつきません。
まず、状況を聞く
沈黙が続いたら、推測せずに聞いてください。
聞き方は、相手を責めない形で。「ご検討の状況はいかがでしょうか」「何か追加でお出しできる資料はありますか」。
このとき、仲介会社を通じて聞くのが実務です。当事者同士だと、催促の印象が強くなります。
そして、相手の答え方を見てください。具体的な検討状況を答えるなら、進んでいます。曖昧な返事が続くなら、⑤の可能性があります。
「いつまでに回答をいただけますか」と期限を聞く。これに答えられない相手は、動いていません。
情報を足す
③が原因なら、こちらから動けます。
相手が何を判断できずにいるのかを考えてください。
数字の根拠が足りない。月次の推移、部門別の損益、受注残。
将来の見通しが分からない。事業計画、市場の状況。
リスクが読めない。懸念されている点について、こちらから説明する。
「聞かれていないが、判断に必要そうな資料」を先に出す——これが効きます。
相手の社内で説明する立場の人を、助けるという発想です。
論点を分解する
②が原因の場合、「価格が合わない」で止めないでください。
分解すると、動かせる部分が見えます。
金額そのものか、支払い方か。総額は同じでも、分割やアーンアウトなら受け入れられることがあります。
どの前提が違うのか。調整項目の見方、将来の見通し。
価格以外で交換できないか。引き継ぎ期間を延ばす、表明保証の範囲を広げる、競業避止を長くする。買い手にとって価値のあるものを渡す。
一つの数字で対立すると、勝ち負けになります。複数の論点にすると、交換ができます。
会う
実務で最も効く方法です。書面とメールのやり取りが続いたら、直接会ってください。
文書では、温度が伝わりません。また、相手の社内の事情も分かりません。
トップ同士で会えば、何が引っかかっているのかが、一度の会話で分かることがあります。
会う理由は、「交渉」ではなく「状況の共有」にしてください。条件を詰める場ではなく、お互いの考えを確認する場として設定する。
これで動く案件は、実際に多くあります。
期限を切る
膠着を動かす直接的な方法です。「◯月◯日までに回答をいただきたい」と伝える。
効果は2つ。相手の社内で優先順位が上がる。そして、降りる判断も促せる。
ただし、使い方に注意が要ります。
理由を添えてください。「他の候補との関係で」「決算期の都合で」。理由のない期限は、圧力にしか見えません。
そして、切った期限は守ってください。過ぎても待ち続けると、期限の意味がなくなります。次に切る期限も、効かなくなります。
他の候補を動かす
状況を変える方法です。独占交渉権を与えていなければ、他の候補と並行して進められます。
これを伝えるかどうかは判断ですが、事実として複数と話していることは、伝えてよい情報です。
ただし、煽らないでください。「他社はもっと高い」と言えば、相手は「では、そちらへどうぞ」となります。
伝え方は、「他にもご検討いただいている先があり、◯月には方向性を決めたい」という形。事実と期限を伝えるだけです。
独占交渉権を与えている場合は、期間が切れるまで動けません。期間の設定は慎重に。
見切る基準
動かないものは、動きません。見切る基準を、先に決めておいてください。
目安として、次のいずれかに当てはまれば、一度整理する時期です。
2か月以上、実質的な進展がない。
期限を2回切って、2回とも守られなかった。
質問への回答が返ってこない。
担当者が代わり、話が最初に戻った。
条件が後退し続けている。
止めるのも、こちらの判断です。「他の候補を探したい」と伝えれば、相手が本気なら動きます。動かなければ、そこまでの案件です。
止まった時間を無駄にしない
最後に、考え方です。
交渉が止まっている間も、できることがあります。
資料を整える。次の候補に出すときに使えます。
指摘された点を直す。労務、契約、株主の整理。
他の候補の検討を進める。
業績を作る。時間が経てば、次の決算が近づきます。
「待っているだけの時間」を作らないでください。
そして、止まった経験は、次の交渉に効きます。何が引っかかるのかを知ったということです。一度流れた後も併せてご覧ください。