資料の調査とは別に、経営者本人に直接聞く場が設けられます。半日から1日、専門家からの質問に答える。準備の仕方と、答え方の原則を整理します。
何のための場か
目的を理解しておいてください。資料では分からないことを聞く場です。
数字の背景、事業の実態、判断の経緯、将来の見通し、リスクの認識。
買い手の側から見れば、経営者の人となりと、事業への理解度を見る場でもあります。
したがって、正確に答えることと同じくらい、誠実に答えることが見られています。
分からないことを取り繕う、都合の悪いことを曖昧にする。専門家は、そうした反応を見ています。
誰が来て、誰が出るか
相手側は、複数の専門家が来ます。財務(公認会計士)、法務(弁護士)、税務(税理士)、労務(社会保険労務士)。買い手の担当者も同席します。
こちら側は、経営者が中心です。加えて、論点に応じて経理担当者、現場の責任者が同席することがあります。
顧問税理士の同席は、財務・税務の質問に答えるうえで有効です。
仲介会社も同席します。進行を管理し、答えにくい質問を引き取る役割です。
誰が何に答えるかを、事前に決めておいてください。
よく聞かれること
典型的な質問を挙げます。事前に答えを用意してください。
事業について。収益の源泉は何か。競合との違いは。価格はどう決めているか。
顧客について。上位先との関係、取引の経緯、継続性の見通し。
人について。キーマンは誰か。その人が辞めたらどうなるか。採用の状況。
数字について。利益率の変動の理由。設備投資の予定。
リスクについて。いま心配していることは何か。
最後の質問が最も重要です。「ありません」と答えるのは、かえって不自然です。
答え方の原則
4つの原則を挙げます。
① 事実と意見を分ける。「実績は◯円です」と「今後は伸びると思います」を、混ぜない。
② 分からないことは、分からないと言う。「確認してご回答します」で構いません。推測で答えて、後で違うと判明するのが最も悪い。
③ 都合の悪いことも言う。隠しても調査で出ます。自分から言えば、説明とセットで伝わります。
④ 数字は資料で答える。記憶で答えず、その場で資料を確認する。
この4つを守れば、内容にかかわらず信頼されます。
答えにくい質問への備え
実際に出る、答えにくい質問を挙げます。
「なぜ譲渡されるのですか」。正直に。後継者不在、年齢、事業の将来性。
「他にも候補がいますか」。事実を簡潔に。詳細は答えなくてよい。
「この赤字の原因は」。事実と対策を。
「従業員は知っていますか」。公表の予定も含めて答える。
「いくらで売りたいのですか」。この場で答える必要はありません。「条件は別途ご相談させてください」と、仲介会社に引き取ってもらう。
価格交渉の場ではありません。ここは事実を確認する場です。
準備しておくもの
当日、手元に置いておくものです。
決算書3期分と直近の試算表。
売上の内訳。取引先別、商品別、部門別。
組織図と従業員名簿。年齢と勤続年数が分かるもの。
主要な契約書の一覧。
設備の一覧と、更新の計画。
事業計画。あれば。
「後で確認します」を減らすほど、その場で話が進みます。
逆に、手元に無い資料について、推測で答えないでください。
同席者との事前打ち合わせ
実務で最も効く準備です。同席する人と、事前に打ち合わせてください。
確認すべきは、誰が何に答えるかです。
数字は経理担当者、現場は責任者、全体の判断は社長。
そして、答え方を揃える。とくに、まだ決まっていないことについて、人によって違うことを言わないように。
また、従業員が同席する場合、その人がどこまで知っているかを確認してください。譲渡の条件を知らない人が同席すると、質問の内容から状況を察します。
同席者の範囲も、情報管理の一部です。
場所と時間の設定
実務的な配慮です。
場所。自社の会議室で行う場合、従業員に気づかれます。複数の外部の人が半日来れば、目立ちます。
対策としては、社外の会議室を使う、「監査法人の調査」といった説明を用意する、休日に行うといった方法があります。
ただし、虚偽の説明は後で信頼を損ないます。説明しない、で通すほうが無難な場合もあります。
時間。半日から1日が通常です。集中力が続く範囲で、休憩を入れてください。疲れると、口が滑ります。
終わった後
面談の後にやることです。
「確認します」と答えた事項を、一覧にする。そして、期限を決めて回答する。
放置すると、「答えられない質問がある」という印象が残ります。
また、その場の議事録を作ってください。何を聞かれ、どう答えたか。
理由は、その回答が表明保証の前提になることがあるためです。「面談で、こう説明を受けた」という記録が、後の争いの材料になり得ます。
自分が何を言ったかを、正確に記録しておいてください。