トップ面談は面接ではありませんが、買い手は当然、確かめたいことを聞いてきます。その中には、答えにくい質問、答え方によって印象が大きく変わる質問があります。用意していれば落ち着いて答えられ、不意を突かれれば言葉に詰まる。準備の差がそのまま出る場面です。よく出る問いと、備え方を整理します。
「なぜ譲渡を考えているのですか」
ほぼ必ず、最初のほうで聞かれます。買い手が知りたいのは理由そのものよりも、「この会社に何か問題が隠れていないか」という点です。ですから、事情を率直に、かつ一貫して語れることが重要になります。
後継者がいない、体力的に限界を感じている、事業を大きくするには自社の資本では足りない。いずれも十分に説得力のある理由です。問題になるのは、理由が曖昧なとき、あるいは説明が回を追うごとに変わるときです。「なんとなく」「まわりが勧めるので」といった答え方は、相手に別の理由を想像させます。
一方で、業績の先行きへの不安が動機にある場合、それを率直に言うべきか迷われる方がいます。隠す必要はありませんが、不安の中身を具体的に説明できるようにしておくことが大切です。「市場が縮小しているので単独では厳しい」という認識と、「では何があれば続けられるのか」という見立てをセットで語れれば、それは経営判断として伝わります。
「社長が抜けたら、会社は回りますか」
買い手にとって最大の関心事のひとつです。中小企業では、営業も技術も社長が中心という会社が珍しくありませんから、この質問に完璧な答えを返せる会社のほうが少数です。
大切なのは、実態を正確に伝えたうえで、引き継ぎの道筋を示すことです。「営業の主要先は自分が担当しているが、同行の体制を作れば1年程度で移せると考えている」「技術的な判断は自分がしているが、工程の標準化は進めてきた」。このように、依存の範囲と、移管の見通しを具体的に語れれば、相手の不安はかなり下がります。
逆に、「大丈夫です、社員がしっかりしていますから」と根拠なく答えるのは逆効果です。後の調査で実態が見えたときに、説明の信頼性が失われます。また、譲渡後に社長がどれくらい残る意向なのかも、あわせて聞かれます。引き継ぎ期間の考え方は「引き継ぎ計画の作り方|クロージング後の関与」をご覧ください。
「この期の落ち込みは何が原因ですか」
業績が下がった年、あるいは特定の科目が動いた年について、理由を問われます。数字は資料に書いてありますから、聞かれているのは背景です。
ここで重要なのは、一時的な要因と構造的な要因を切り分けて説明することです。大口の案件が翌期にずれた、設備の更新で費用が集中した、原材料価格が一時的に高騰した。こうした一時要因であれば、その旨と、回復した(あるいは回復の見込みがある)根拠を示します。
一方、構造的な要因であれば、それを認めたうえで対応を語ります。主要顧客の業界そのものが縮小している、人手不足で受注を絞っている。こうした事情は隠せませんし、多くの買い手は織り込んだうえで検討しています。問題は、一時要因であるかのように説明して、後で構造的な問題だと判明することです。
数字の説明では、根拠となる資料を手元に置いておくことをおすすめします。月次の推移、受注の状況、原価の内訳など。その場で細部まで答えられなくても、「確認して回答します」と留保すれば十分です。推測で数字を言うほうが、後の食い違いを生みます。
「従業員や取引先には、どう伝えるつもりですか」
買い手も、従業員の動揺や取引先の離反を恐れています。ですからこの質問は、売り手を試すというより、共に段取りを考えたいという意図で出ることが多い質問です。
答え方としては、まだ決めていない段階であれば「最終契約の後、買い手さんと相談して進めたい」と伝えるのが自然です。そのうえで、心配している点(キーマンの反応、特定の取引先の反応など)があれば共有します。相手にとっては、それ自体が有益な情報になります。
逆に、この質問に対して「自分が説明すれば問題ない」と断言するのは、やや危うい答え方です。買い手は、社長が抜けた後の関係継続を心配しているのであって、社長の影響力の強さを聞いているわけではないからです。開示の設計は「会社売却を従業員にいつ・どう伝えるか」を参考にしてください。
従業員の処遇について、買い手から「基本的に維持します」といった説明があった場合は、その場で細部を詰めようとせず、後の条件交渉に持ち越すのが通常です。面談は条件を決める場ではありません。
「おいくらをお考えですか」
初回の面談で価格の話になることは、決して珍しくありません。答え方には注意が要ります。
売り手から先に具体的な金額を口にすると、それが上限として扱われる可能性があります。逆に、根拠なく高い数字を出せば、相手が検討を止めてしまうこともあります。実務上は、「仲介会社を通じてお伝えします」「まずは御社のお考えを伺いたい」と受け、条件の提示は書面(意向表明)でいただくという流れに乗せるのが安全です。
もっとも、譲れない条件がある場合は、金額そのものではなく考え方として伝えておくことに意味があります。「借入の個人保証を外していただくことが前提です」「従業員の雇用維持を重視しています」といった内容は、早く伝えるほど後の齟齬が減ります。経営者保証の扱いは「経営者保証の解除」をご覧ください。
なお、この場で出た金額の話は、あくまで感触であって合意ではありません。正式な条件は意向表明書で提示され、そこから基本合意に向けた検討が始まります(「意向表明書を受け取ったら」)。
※ 面談での発言が法的にどのような意味を持つかは、状況により判断が分かれる場合があります。条件に関わる書面のやりとりについては、弁護士等の専門家にご確認ください。
まとめ|準備できる質問は、決まっている
トップ面談で聞かれることは、会社によって大きくは変わりません。譲渡理由、社長への依存、業績の変動要因、従業員と取引先への伝え方、そして価格。この五つに自分の言葉で答えられるよう準備しておけば、面談で困ることはほとんどなくなります。
共通する原則は三つです。事実と見通しを分けること、わからないことは留保して後で正確に答えること、不利な事実を先送りしないこと。この三つを守っていれば、多少言葉に詰まっても、誠実さは伝わります。
当社では、面談の前に想定問答を整理し、答え方をご一緒に検討しています。とくに答えにくいと感じている質問があれば、事前の打ち合わせで率直にお聞かせください。準備しておくほど、当日は落ち着いて臨んでいただけます。