話が進んだ段階で、新しい条件が出てくる。「これも入れさせてください」。受けるべきか、断るべきか。判断の枠組みを整理します。
いつ、なぜ出てくるのか
追加条件が出る典型的な時期があります。
デューデリジェンスの後。調査で見つかった懸念に対応するため。これは正当な理由です。
最終契約書のドラフト時。弁護士が入り、条項が細かくなります。
クロージングの直前。ここで出てくる条件は、注意が必要です。
背景としては、買い手の社内で承認を得るために必要だったという場合と、単に交渉を有利にしたいという場合があります。
まず、理由を聞いてください。根拠のある条件かどうかで、対応が変わります。
受けてよい条件
実質的な負担が小さく、相手の安心につながるものです。
事実を確認するだけの表明保証。「係争はない」「未払いの残業代はない」。事実であれば、表明することに問題はありません。
引き継ぎへの協力。取引先への同行、質問への回答。期間と時間の上限を決めれば、負担は限定されます。
クロージング前の通常の運営。大きな資産の処分や新規の借入をしない、といった定め。
資料の提供。
これらは、断る理由が乏しい条件です。受けたうえで、交換材料として使えます。
慎重に判断すべき条件
負担が読めない、あるいは大きいものです。
補償の上限が高い、期間が長い。譲渡代金の全額を上限とし、期間が5年——これは実質的に、代金が確定していないのと同じです。
広範な競業避止。期間、地域、業種。引退後の活動が制約されます。
長期の引き継ぎ義務。2年、3年の常勤。
対価の後払い・業績連動の追加。確実性が下がります。
包括的な表明保証。「一切の債務は存在しない」といった、確認しきれない内容。
これらは、金額に換算して考えてください。
金額に換算する
判断の方法です。その条件を受けると、いくら失う可能性があるか。
補償の上限が代金の50%なら、最悪の場合、半分を返すということです。
引き継ぎが2年なら、その間の時間と機会を失います。
競業避止が5年なら、その間、同業での活動ができません。
「条件の話」ではなく「金額の話」として整理してください。
そうすると、価格との比較ができます。「この条件を受けるなら、価格を◯円上げてほしい」という交渉が成り立ちます。
交換材料を作る
追加条件を受ける場合、一方的に受けないでください。
交換できるものを挙げます。
価格。最も分かりやすい。
支払いの時期。後払いを減らす、エスクローの期間を短くする。
こちらの条件を通す。従業員の雇用、社名の存続、引き継ぎ期間の短縮。
補償の上限を下げる。別の条件を受ける代わりに。
「それを受けるので、これをお願いします」という形にする。
ただ受けるだけだと、次も出てきます。
クロージング直前の追加は警戒する
実務で最も注意すべき局面です。
日程が決まり、関係者が動き出した段階で、新しい条件が出る。
このタイミングは、売り手が断りにくいことを利用している可能性があります。ここまで来て破談にしたくない、という心理です。
対応の原則は、その場で決めないこと。
「持ち帰って検討します」と言って、一日置いてください。
そして、合理的な理由があるかを確認する。デューデリジェンスで見つかった事実に基づくなら正当です。理由の説明がないなら、断ってよい条件です。
断るときの伝え方
断ること自体は、何ら問題ありません。伝え方の作法だけ整理します。
理由を添える。「この期間では、引退後の生活設計が立たないため」。
代案を示す。「期間を2年に短縮していただければ、お受けできます」。
全部を断らない。複数の追加条件が出た場合、受けられるものは受ける。「一切受けない」という姿勢は、交渉を止めます。
早く伝える。保留すると、相手の社内手続きが止まります。
断った結果、相手が降りることもあります。それは、その条件が相手にとって必須だったということです。
自分の譲れない線を決めておく
最も重要な準備です。交渉に入る前に、譲れない条件を決めてください。
1つか2つに絞ってください。全部が譲れないなら、まとまりません。
典型的には、従業員の雇用、手取りの下限、引き継ぎ期間の上限。
そして、紙に書いてください。交渉が進むと、判断が揺れます。「ここまで来たのだから」という心理が働きます。
最初に決めた線を、読み返す。
これが、後悔を減らす唯一の方法です。
仲介会社に相談する
最後に、実務的な助言です。
追加条件が出たら、その条件が一般的かどうかを仲介会社に聞いてください。
「この補償の上限は、通常の水準ですか」「この競業避止の期間は、長いですか」。
経験のある担当者なら、答えられます。
そして、弁護士にも確認してください。条項の書き方によって、意味が大きく変わることがあります。
「よく分からないが、断ると破談になりそうだから受ける」——これが最も避けるべき判断です。
分からないものは、分かるまで聞いてください。署名した後では遅すぎます。