カフェ・喫茶は、原価に占めるコーヒー豆の比率が高く、同時に「席を提供する時間」を売る事業でもあります。原料の相場が上がり、時給が上がり、それでも滞在時間は短くできない——この三重の制約のなかで、立地と業態の設計が収益を分けています。本稿では、公表資料で現在地を確認し、経営環境と事業承継の論点を整理します。
原料相場|コーヒーは史上最高値の水準
カフェ・喫茶の経営を語るうえで、2025年以降で最も大きな出来事はコーヒー相場の高騰です。全日本コーヒー協会が公表する「2025年コーヒー重大ニュース」では、気候変動の影響による産地の不作などから、コーヒー相場はアラビカ、ロブスタとも史上最高値を記録し、米国の関税政策の影響もあり高値が継続したとされています。
同協会の公表では、歴史的な価格高騰と円安の影響で各社の価格改定が継続し、国内消費は微減となったとされています。一方で、カフェインレスコーヒーの輸入量は史上最多になったとされており、需要の内訳には変化も生じています。
コーヒー豆は、産地の天候、為替、海上運賃という三つの変数に晒される原料です。長期契約や在庫の積み増しである程度は平準化できますが、相場が数年にわたって高止まりすれば、いずれ売価に反映せざるを得ません。
あわせて、総務省「消費者物価指数」によれば2025年平均の食料の指数は前年比6.8%の上昇(うち穀類21.9%の上昇)、総合指数は3.2%の上昇でした。パンや菓子といったフードメニューの原価も上昇しています。
需要側|外食全体の動きと、カフェの特性
日本フードサービス協会「外食産業市場動向調査」によれば、2025年通年の外食全体の売上は前年比107.3%、客単価は同104.3%でした。売上を押し上げたのは客単価の上昇であり、客数については頭打ち感が進んでいるとされています。
カフェ・喫茶は、この「客単価を上げにくい」制約が比較的強い業態です。一杯あたりの価格には心理的な上限があり、値上げは来店頻度に影響します。加えて、滞在時間が長いため、席の回転で売上を伸ばすことにも限界があります。
この制約に対して、実務では次のような対応がとられています。
- フード(モーニング、ランチ、スイーツ)の比率を高めて客単価を上げる
- テイクアウト・モバイルオーダーを導入して回転を上げる
- 豆の物販・サブスクリプションで、来店に依存しない売上を作る
- 自家焙煎により原価と品質を自社で管理する
- 朝と夜で業態を変え、時間帯ごとの稼働を上げる
訪日需要も要素のひとつです。日本政府観光局(JNTO)の発表によれば、2025年の訪日外客数は4,268万3,600人で前年比15.8%の増加、年間として過去最高を更新しました。観光地や主要駅の周辺では、この需要が来店客数に反映されています。
コスト側|人件費と家賃
厚生労働省の公表によれば、令和7年度の地域別最低賃金は全国加重平均で1,121円となり、前年度から66円の引上げで、初めて全都道府県で1,000円を超えました。令和8年度についても、目安どおりに改定されれば全国加重平均は1,176円になるとされています。
カフェは長時間営業でアルバイト比率が高く、この改定の影響を強く受けます。しかも、接客と抽出の品質が商品価値の一部であるため、単純な省人化には限界があります。
家賃も重い固定費です。人通りのある立地は賃料が高く、賃料を抑えれば集客が難しくなる——この関係が、カフェの立地戦略を難しくしています。商業施設内の店舗では歩合賃料が設定されている場合もあり、売上が伸びても利益が残りにくい構造になることがあります。
倒産の動向としては、帝国データバンクの調査によれば、2025年の飲食店の倒産は900件で前年(894件)を上回り過去最多を更新したとされています。食材・光熱費の高騰や賃上げで利益が圧迫される一方、容易に値上げに踏み切れない小規模事業者を中心に厳しい状況が続いているとされています。
事業承継の観点|カフェ・喫茶で何が論点になるか
帝国データバンクの2025年調査では、国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。カフェ・喫茶は個人経営が多く、店主本人が店の顔になっているケースが少なくありません。この属人性は魅力であると同時に、承継の難しさでもあります。
承継を検討する際に整理しておきたい点を挙げます。
- 店舗別の売上・原価率・人件費率・家賃比率と、直近3期の推移
- 賃貸借契約(残存期間、更新条件、中途解約の違約金、保証金、造作の扱い)
- 焙煎機・エスプレッソマシン等の設備の設置年、保守契約、更新見込
- 豆の仕入先と取引条件、自家焙煎の場合はレシピ・プロファイルの文書化
- 物販・卸売の売上比率と、その取引先
- 営業許可(飲食店営業、菓子製造業など該当するもの)の名義と有効期限
- 屋号の商標登録の有無と名義
個人事業として運営している場合の論点は「個人事業主の事業承継|屋号・許認可・資産の引き継ぎ方」もご参照ください。
とくに焙煎のプロファイルやドリンクのレシピは、文書化されているかどうかで承継のしやすさが大きく変わります。店主の感覚に依存している部分を、記録として残す作業は、譲渡を決めていなくても価値のある取り組みです。
M&Aで引き継ぐときに整理しておきたいこと
カフェ・喫茶の譲渡では、規模によって現実的なスキームが変わります。
法人で複数店舗を運営している場合は株式譲渡が中心となり、法人が存続するため営業許可、賃貸借契約、雇用は一般に維持されます。一方、1店舗のみ、あるいは個人事業として運営している場合は事業譲渡(いわゆる居抜き譲渡を含む)が選択されることが多く、その場合は営業許可の取得、賃貸借契約の名義変更(貸主の承諾)、造作の譲渡契約が個別に必要になります。
そのほか、一般に確認される事項です。
- 造作・設備の所有関係(リース残債の有無を含む)
- 労務管理(シフトと実労働時間の記録、未払残業の有無)
- SNSアカウント・予約サイトのアカウントと、その引き継ぎ
- 常連客の構成と、店主交代が来店に与える影響の見立て
- コーヒー豆等の在庫と、その鮮度・回転
店主が交代することを常連客にどう伝えるかは、この業態に固有の論点です。急な変化は来店を減らしかねないため、引継ぎ期間を設けて段階的に移行する設計が有効な場合があります。飲食業全体の環境については「飲食業界の動向|人件費・原材料費と業態転換」もご覧ください。
まとめ|原価が上がる局面ほど、仕組みが価値になる
コーヒー相場はアラビカ・ロブスタとも史上最高値を記録し、各社の価格改定が継続、国内消費は微減とされています(全日本コーヒー協会「2025年コーヒー重大ニュース」)。外食全体の売上は前年比107.3%(日本フードサービス協会、2025年)ですが、カフェは客単価を上げにくい業態です。
この環境で残るのは、仕組みを持っている店です。焙煎のプロファイルが記録され、フードのオペレーションが標準化され、物販や卸という来店以外の売上がある——こうした要素は、原価が上がる局面でも収益を守る力になります。そして、そのまま承継のしやすさにもつながります。
店をたたむべきか、誰かに引き継いでもらうべきか。迷われている段階でも、選択肢を並べるところからご相談いただけます。
本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。制度・統計の解釈や個別の適用については、必ず所管官庁および専門家にご確認ください。