賃貸仲介業は、人が動くことで成り立つ事業です。進学、就職、転勤、独立、結婚、離別——人生の節目に住み替えが起き、その都度仲介の仕事が生まれます。したがって、この業界の将来を考えるうえで最も重要な数字は、世帯数の推移です。本稿では、人口動態と住宅ストックの公表データから、賃貸仲介業界の現在地を整理します。
賃貸仲介の土台|世帯数は2030年にピークを迎える
国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)令和6(2024)年推計」(令和6年4月12日公表)によれば、世帯総数は2020年の5,570万世帯から増加し、2030年の5,773万世帯でピークを迎え、その後は減少に転じて2050年には2020年より310万世帯少ない5,261万世帯になると推計されています。
ただし、世帯の中身は変化します。同推計によれば、「単独」世帯の割合は2020年の38.0%から2050年には44.3%へと6.3ポイント上昇します。世帯数で見ると、2020年よりも増加するのは単独世帯のみで、2,115万世帯から2036年に2,453万世帯まで増加した後に減少に転じ、2050年には2,330万世帯になるとされています。一方「夫婦と子」は1,401万世帯から1,130万世帯へ減少します。平均世帯人員は2020年の2.21人から2033年に初めて2人を割り込み、2050年には1.92人になる見込みです。
賃貸仲介にとって、この変化は「世帯総数の頭打ち」と「単身需要の増加」という二つの意味を持ちます。単身世帯は持家より賃貸を選びやすく、住み替えの頻度も相対的に高い層です。総量が減っても、賃貸の対象となる世帯層はしばらく厚みを保つ、という読み方ができます。
もう一つ押さえておくべきは高齢化です。同推計では、世帯主が65歳以上の世帯は2020年の2,097万世帯から2045年の2,431万世帯でピークを迎え、65歳以上男性の独居率は16.4%から26.1%へ、女性は23.6%から29.3%へ上昇するとされています。高齢単身世帯に占める未婚者の割合も、男性33.7%から59.7%へ、女性11.9%から30.2%へと上昇する見込みです。高齢者・単身者の入居をどう扱うかは、実務上の大きな論点になっていきます。
供給の側|賃貸用の空き家443万6千戸
供給側の状況も確認します。総務省「住宅・土地統計調査」(2023年)によれば、2023年10月1日現在の総住宅数は6,504万7千戸、総世帯数は5,621万5千世帯で、1世帯当たり住宅数は1.16戸です。空き家は900万2千戸で過去最多、空き家率は13.8%で過去最高となりました。
空き家の内訳を見ると、「賃貸用の空き家」が443万6千戸で最も多くなっています。2018年の432万7千戸から増加しており、空き家全体の約半数を占めます。つまり、賃貸市場は構造的に供給過剰の状態にあるということです。
新規供給も続いています。国土交通省「建築着工統計調査報告」(令和7年計)によれば、2025年の貸家の着工は324,991戸で前年比5.0%減、3年連続の減少ではあるものの、依然として持家(201,285戸)を大きく上回る水準です。地域別では首都圏0.9%減、中部圏4.0%減、近畿圏0.2%減に対し、その他地域は12.4%減と、地方での落ち込みが目立ちます。
空室が多いということは、オーナーにとっては競争が厳しいということであり、仲介会社にとっては「決められる会社」の価値が高いということでもあります。
事業者の姿|宅建業者は増え、個人業者は減っている
事業者数の動きも見ておきます。国土交通省「令和6年度宅地建物取引業法の施行状況調査結果」によれば、令和6年度末(令和7年3月末)現在の宅地建物取引業者数は132,291業者で、前年度比1,708業者(1.3%)の増加、11年連続の増加でした。
ただし内訳を見ると、法人が119,902業者であるのに対し、個人業者は12,389業者です。平成27年度末の個人業者17,620業者と比べると、9年で約5千業者減っています。地域に根ざした個人経営の賃貸仲介店が、着実に姿を消してきたということです。
担い手の資格については、令和6年度に新たに30,336人が宅地建物取引士の登録を行い、年度末の総登録者数は1,211,760人となりました。資格者は増えていますが、事務所ごとに専任の宅地建物取引士を置く必要があるため、小規模店舗ほど人の確保が免許維持の制約になります。
経営環境|管理との一体化と業務の電子化
賃貸仲介の収益は、仲介手数料と広告料が中心で、契約が成立して初めて売上が立つフロー型です。繁忙期(1月〜3月)への依存度が高く、年間の収益が数か月に集中する構造になっています。
この不安定さを補うために、多くの会社が管理受託を組み合わせています。管理は毎月の管理料が入るストック型で、仲介の紹介元にもなるため、両者は相互補完の関係にあります。管理戸数(自己所有物件の管理を除く)が200戸以上の事業者には、賃貸住宅管理業法に基づく登録が義務づけられており、国土交通省によれば令和7年度末時点の登録数は10,197社です。
業務の電子化も進みました。2022年5月から、宅地建物取引業法に基づく重要事項説明書等を、相手方の承諾を得て電磁的方法により提供することが可能になっています。オンラインでの物件案内、電子契約、鍵の受け渡しの無人化といった仕組みが広がり、店舗の役割と必要数が問い直されています。
店舗網の見直しは、承継の場面でも論点になります。駅前の一等地に長期の賃貸借契約を抱えている場合、その契約条件が引き継ぐ側の負担になることもあれば、集客力という資産になることもあります。
事業承継の観点で何が論点になるか
賃貸仲介会社の承継では、次の点が焦点になります。
第一に、オーナーとの関係です。管理を受託している場合、その関係が会社に帰属しているのか、経営者様個人に帰属しているのかが問われます。オーナーごとの取引年数、預かり物件数、直近の管理料改定の履歴が整理されていることは、関係の強さを示す材料になります。
第二に、免許と専任取引士です。株式譲渡であれば免許は一般に維持されますが、役員や専任取引士の変更には所定の届出が必要です。事務所ごとの配置が要件を満たしているかは、必ず確認されます。
第三に、店舗の賃貸借条件です。残存期間、賃料水準、原状回復義務、中途解約の可否は、引き継ぐ側の判断に直接影響します。
そして後継者です。帝国データバンクの2025年調査では国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。個人業者が減り続けている事実は、承継できずに終わった事業が積み重なってきた結果とも読めます。
M&Aで引き継ぐときに整理しておきたいこと
一般に、次のような情報が確認されます。
- 免許の種別・番号・更新回数・有効期限、事務所ごとの専任宅地建物取引士の配置
- 賃貸住宅管理業の登録の有無と更新時期、業務管理者の配置
- 売上の内訳(仲介手数料/広告料/管理料/保険・付帯収入)と、月別の変動
- 管理受託物件の一覧(オーナー数、戸数、管理料率、受託開始年、入居率)
- 年間の成約件数と、集客経路の内訳(ポータルサイト、来店、紹介、法人契約)
- 店舗の賃貸借契約(所在、賃料、残存期間、更新条件)
- 従業員の在籍状況(宅地建物取引士の有無、勤続年数、店舗ごとの配置)
- 入居者・オーナーとの係争、原状回復や敷金精算に関する苦情の履歴
賃貸仲介は、オーナーと入居者という二つの関係のうえに成り立つ事業です。どちらの関係も、会社に帰属していることが説明できれば、承継はぐっと進めやすくなります。
当社は成功報酬型のもと、賃貸仲介業を含む中小企業の事業承継・会社売却をご支援しています。守秘義務を徹底のうえ、初期の整理から対応いたします。
管理側の動きは「不動産管理業界の動向|管理受託の競争とストック収益」、業界全体の姿は「不動産業界の動向|取引の変化と宅建業の担い手」でも整理しています。費用の考え方は料金体系のページに公開しています。
本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。