不動産管理業は、毎月同じ金額が入ってくるストック型の事業です。景気の影響を受けにくく、事業として引き継ぎやすい性質を持っています。その一方で、管理する建物は年々古くなり、管理を担う人は減り、コストは上がっていく。この三つの圧力にどう向き合うかが、いまの管理業界の課題です。本稿では公表資料から現在地を整理します。
管理対象の現在地|723.6万戸のストックと高経年化
国土交通省の推計によれば、分譲マンションのストック戸数は2025年末で723.6万戸です。1968年に5.3万戸だったものが、半世紀余りでこの水準まで積み上がりました。ただし新規供給は減速しており、同推計では2020年代に入って年間10万戸を下回る年が続いています。国土交通省「建築着工統計調査報告」(令和7年計)でも、2025年の分譲マンション着工は89,888戸で前年比12.2%減、3年連続の減少でした。
より重要なのは、既存ストックの年齢です。同省の推計によれば、2025年末で築40年以上のマンションは約158.8万戸あり、10年後(2035年末)には約2.0倍の313.1万戸、20年後(2045年末)には約3.2倍の503.6万戸になる見込みとされています。10年前(2015年末)は53.3万戸でしたから、10年で3倍近くに増えたことになります。
管理会社にとって、これは仕事の内容が変わることを意味します。日常清掃と会計処理が中心だった業務に、大規模修繕の計画立案、資金計画の見直し、建替え・再生の検討といった、より専門性の高い業務が加わっていきます。
管理組合の実態|令和5年度マンション総合調査から
国土交通省「令和5年度マンション総合調査」(令和6年6月21日公表)は、管理組合と区分所有者の実態を5年ごとに調べたものです。主な結果は次のとおりです。
| 項目 | 令和5年度の結果 |
|---|---|
| 世帯主が70歳以上の割合 | 25.9%(平成30年度22.2%)。昭和59年以前完成のマンションでは55.9% |
| 長期修繕計画を作成している管理組合 | 88.4%(平成30年度90.9%) |
| 25年以上の長期修繕計画に基づき修繕積立金を設定 | 59.8%(平成30年度53.6%) |
| 月/戸当たり修繕積立金の平均 | 13,054円(平成30年度11,243円) |
| 賃貸住戸のあるマンションの割合 | 77.8% |
| 3か月以上の空室があるマンションの割合 | 34.0% |
| 永住するつもりの区分所有者 | 60.4%(平成30年度62.8%) |
出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果からみたマンションの居住と管理の現状」より作成
注目すべきは、修繕積立金の平均が5年で1,811円上がったこと、そして長期修繕計画を作成している管理組合の割合が90.9%から88.4%へわずかに下がったことです。積立金の水準は上がっているものの、計画そのものを持たない組合が微増している。高経年のマンションほど合意形成が難しくなる傾向を踏まえると、管理会社の関与の重みが増していることが読み取れます。
また同調査では、外部専門家を選任している理由として「大規模修繕等の実施」47.4%、「知識・ノウハウの不足」32.7%、「管理費の滞納等への法的措置」30.5%が挙げられています。管理組合が自力では対応しきれない領域が広がっているということです。
賃貸管理の枠組み|登録制度と立入検査
賃貸住宅の管理については、「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」(賃貸住宅管理業法)が令和3年6月に施行されました。国土交通省によれば、令和7年度末時点における同法に基づく賃貸住宅管理業者の登録数は10,197社です。管理戸数(自己所有物件の管理を除く)が200戸以上の事業者には登録が義務づけられています。
監督も実際に行われています。同省の公表によれば、令和7年度に全国168の賃貸住宅管理業者および特定転貸事業者(サブリース業者)に立入検査を実施し、法令違反が認められた118社に是正指導を行いました(令和6年度は187社に検査、127社に指導)。指導事項として最も多かったのは「管理受託契約の締結時の書面の交付義務違反」62件、次いで「管理受託契約重要事項説明義務違反」43件、「帳簿の備付け義務違反」32件でした。
この検査結果は、承継を検討する側にとって重要な示唆を含みます。書面交付や帳簿備付けといった基本的な実務の不備が、業界全体で相当数見つかっているということです。買い手は当然、この点を確認します。
なお、分譲マンションの管理業については、マンションの管理の適正化の推進に関する法律に基づき国土交通大臣の登録(5年ごとの更新)を受ける必要があり、事務所ごとに管理業務主任者を置くこととされています(管理組合30組合につき1名以上、30組合未満の場合は1名以上)。
登録の要件や届出の要否は、事業の形態や規模によって異なります。個別の判断にあたっては、所管の行政庁および専門家にご確認ください。
経営環境|人手不足とコストの上昇
管理業務の原価は、管理員・清掃員・フロント担当者といった人件費と、外注する設備管理・清掃の委託費で構成されます。この両方が上がっています。
公益社団法人全国ビルメンテナンス協会「ビルメンテナンス情報年鑑2026」(第56回実態調査、回答1,060社)によれば、業界の悩みの1位は「現場従業員が集まりにくい」88.5%で2013年度以降13年連続、次いで「若返りが図りにくい」74.1%、「賃金上昇が経営を圧迫」67.5%でした。また2025年度の契約単価改定率は官公庁6.2%、民間10.0%とされ、前回調査(官公庁2.7%、民間2.6%)を大きく上回っています。委託先の単価が上がれば、管理会社の原価も上がります。
管理委託費の改定は、管理組合の総会決議を経る必要があり、簡単ではありません。原価が先に上がり、収入の改定が後から追いつく構造のなかで、どこまで交渉を進められているかが、会社ごとの収益力の差になります。
事業承継の観点で何が論点になるか
管理会社の承継では、次の点が焦点になります。
第一に、管理受託契約の性質です。管理組合との契約は通常1年更新で、総会の決議によって他社に切り替えられる可能性が常にあります。契約件数だけでなく、継続年数、解約実績、直近の委託費改定の履歴を示せることが、価値の説明になります。
第二に、フロント担当者の在籍です。管理組合との関係は、担当者個人に紐づいていることが多い領域です。担当者が辞めれば契約が動くこともあります。人の定着状況は、契約の安定性そのものです。
第三に、滞納と係争です。管理費の滞納状況、法的措置の履行状況、過去の紛争の有無は、引き継ぐ側が確認する事項です。
そして後継者です。帝国データバンクの2025年調査では国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。管理業は毎月の収益が安定しているぶん、承継を先送りしやすい業種でもあります。しかし建物の高経年化が進むなかで、対応できる体制を持たないまま時間が経つほど、契約の見直しリスクは高まります。
M&Aで引き継ぐときに整理しておきたいこと
一般に、次のような情報が確認されます。
- 登録の状況(マンション管理業/賃貸住宅管理業)と更新時期、管理業務主任者・業務管理者の配置
- 管理受託物件の一覧(戸数、委託費、契約期間、受託開始年、担当者)
- 直近5年の受託増減(新規受託件数と解約件数、解約理由)
- 委託費の改定履歴と、今後の改定余地
- 外注先(清掃・設備管理・警備・エレベーター保守など)の一覧と契約条件
- 大規模修繕工事の受注実績と、工事部門の収益構造
- 管理費・修繕積立金の滞納状況と、法的措置の履行状況
- 賃貸管理における契約書面・帳簿・定期報告の整備状況
管理受託契約の一覧は、そのまま事業の設計図です。これが整理されているかどうかで、交渉に要する時間が変わります。より実務的な論点は「不動産管理業のM&A|管理受託契約の価値と引き継ぎ」でも整理しています。
当社は成功報酬型のもと、不動産管理業を含む中小企業の事業承継・会社売却をご支援しています。守秘義務を徹底のうえ、初期の整理から対応いたします。
仲介側の動きは「賃貸仲介業界の動向|人口動態と店舗網の見直し」でも整理しています。費用の考え方は料金体系のページに公開しています。
本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。