会計事務所は、経営者にとって最も身近な専門家であると同時に、それ自体がひとつの事業体です。所長の高齢化と職員の確保という課題は、顧問先である中小企業と同じ構造を抱えています。ここでは、公表されている数字からこの業界の輪郭を描きます。
数字で見る会計事務所業界の現在地
日本公認会計士協会の「会員数調(主たる事務所基準)」によると、2024年12月31日現在の会員数は、公認会計士36,696人、外国公認会計士1人、監査法人288で、合計36,985です。
一方、税理士については日本税理士会連合会の公表によれば、令和8年8月末日現在の税理士登録者数は82,343人、税理士法人の届出数は5,330件(うち主たる事務所3,167件)です。会計・税務の専門職としては、税理士のほうが人数の面では倍以上の規模を持つことになります。実務上、中小企業の会計・税務を日常的に支えているのは税理士事務所であり、公認会計士は監査法人での監査業務に多くが従事しています。
年齢構成と地域偏在という二つの偏り
同じ会員数調の年齢階層別の集計を見ると、公認会計士の年齢構成には明確な山があります。
| 年齢層 | 人数 | 構成比 |
|---|---|---|
| 35歳以上40歳未満 | 5,555人 | 15.1% |
| 40歳以上45歳未満 | 6,828人 | 18.6% |
| 45歳以上50歳未満 | 5,332人 | 14.5% |
| 50歳以上55歳未満 | 4,376人 | 11.9% |
| 60歳以上(合計) | 6,231人 | 約17.0% |
35歳以上50歳未満の層が全体の約48%を占め、この世代が実務の中核を担っている構図です(日本公認会計士協会、2024年12月31日現在)。
地域の偏りはさらに顕著です。同じ資料によると、東京会の会員数は21,746で、全国36,985のうち約6割を占めます。東京会のなかでも千代田区に8,295、港区に1,898、新宿区に3,030が集中しており、監査法人の多くが都心に所在することが数字に表れています。一方、地方会では北海道会421、東北会462、南九州会241、沖縄会102といった規模です。
この偏在は、地方の中小企業が専門的な支援を受けにくいという構造とも重なります。同時に、地方の会計事務所が果たしている役割の大きさを示す数字でもあります。
業務環境の変化|監査と非監査の二つの領域
会計事務所・監査法人の業務は、大きく監査業務と非監査業務に分かれます。監査業務は法令に基づく制度に支えられており、上場会社等の監査を担うには所定の登録が求められます。一方、非監査業務——株式価値算定、財務デューデリジェンス、内部統制の構築支援、IPO支援、事業再生など——は、企業の需要に応じて広がってきた領域です。
中小企業に近い領域では、税務顧問を軸としながら、決算・申告、資金繰り、事業承継、そしてM&Aに関する相談まで受けるという形が一般的です。顧問先の経営者にとって、会計事務所は「最初に相談する相手」であることが多く、この関係が事務所の最大の資産になっています。
制度面では、適格請求書等保存方式(インボイス制度)が2023年10月1日に開始し、電子帳簿保存法に基づく電子取引データの電子保存についても対応が進められてきました(国税庁)。これらは事務所の業務量を押し上げる一方、顧問先への説明と支援という新しい役割も生みました。
経営環境の変化|人材の獲得競争
会計事務所の経営で最も難しいのは、人の確保です。有資格者はもちろん、決算業務を任せられる職員の採用は、地域を問わず難しくなっています。事務所の受託可能件数は職員数で決まりますから、採用ができなければ成長は止まります。
加えて、業務のデジタル化への対応も必要です。会計ソフトのクラウド化、証憑のデータ連携、電子申告——これらへの投資と、職員の習熟に時間がかかります。所長ご自身が実務を抱えたまま、投資判断と人材育成を同時に進めるのは容易ではありません。
結果として、次のような二極化が語られます。規模を拡大して分業と投資を進める事務所と、所長と少数の職員で顧問先を丁寧に見続ける事務所です。どちらが優れているということではありませんが、後者は所長の引退が事業の終わりに直結しやすいという構造的な弱さを抱えます。
事務所承継の観点|顧問先・職員・有資格者
帝国データバンクの2025年調査では、国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。会計事務所も例外ではなく、所長の引退時期が近づいているにもかかわらず、事務所内に承継できる有資格者がいないという相談は増えています。
事務所の承継を考える際に整理しておきたい論点は次のとおりです。
- 顧問先の構成——件数、業種、規模、顧問報酬の水準、契約年数。上位数社への依存度も確認されます。
- 報酬体系——月額顧問料と決算料の割合、記帳代行の有無、長年据え置きになっている契約の割合。
- 職員体制——在籍数、担当先の割り振り、有資格者・科目合格者の人数、平均勤続年数。
- 所長の関与度——所長が直接担当している顧問先の割合。ここが高いほど、承継後の継続性について丁寧な設計が必要になります。
- 形態——個人事務所か法人か。法人であれば持分の移転で承継しやすい一方、個人事務所の場合は顧問契約の切替えという手続きが伴います。
- システムとデータ——使用している会計・申告ソフト、過年度データの保管状況。統合の手間に直結します。
会計事務所・税理士事務所の承継は、税理士法・公認会計士法その他の関係法令や、各会の規則に沿って進める必要があります。具体的な進め方については、所属される会および専門家に必ずご確認ください。
事務所の譲渡にあたって顧問先や職員をどう引き継ぐかについては「税理士事務所・会計事務所のM&A」、顧問先という基盤がどう評価されるかについては「顧客基盤の価値」もあわせてご覧ください。
まとめ|顧問先が続いているうちに
会計事務所の価値は、顧問先との関係の積み重ねにあります。何十年も決算を見てきた関係は、他では代えがたいものです。同時に、その関係は所長個人に強く結びついていることが多く、引退とともに失われやすいという性質も持ちます。
顧問先が続き、職員が在籍しているうちであれば、事務所の機能を引き継ぐ相手を探す余地があります。顧問先が減り、職員が離れてからでは、その余地は狭まります。顧問先の経営者に事業承継を勧めておられる立場だからこそ、ご自身の事務所についても、同じ視点で考えていただければと思います。
当社プラチナパートナーズは、成功報酬型のもと、士業事務所を含む中小企業・事業体の承継のご相談を承っています。守秘義務を徹底のうえ、初期の整理から対応いたします。
本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。