司法書士と行政書士は、企業と個人の手続きを支える国家資格者です。会社の設立から登記、許認可の申請、相続に関する手続きまで、経営者が事業承継やM&Aを進める場面でも必ず関わります。その業界がいまどんな状況にあるのかを、各連合会の公表資料から確認します。

数字で見る司法書士・行政書士業界の現在地

日本司法書士会連合会の公表によると、2026年4月1日現在の全国会員数は23,505人です。内訳は男性18,689人、女性4,816人で、女性の割合は約2割にとどまります。また、簡裁訴訟代理等関係業務の認定を受けている会員は18,698人、認定を受けていない会員が4,807人となっています。

行政書士については、日本行政書士会連合会の公表によると、令和8年4月1日現在の個人会員数は54,186名、法人会員数は1,719で、合計55,905です。会員数の面では、行政書士は司法書士の2倍以上の規模を持ちます。

両者は業務範囲が異なります。司法書士は不動産登記・商業登記といった登記手続きと、簡裁訴訟代理等関係業務(認定を受けた場合)を中心とし、行政書士は官公署に提出する許認可等の申請書類の作成と提出代理を広く担います。M&Aの場面でいえば、株主名簿や役員変更の登記、許認可の承継手続きなど、実務の要所で両者の関与が必要になります。

相続登記の申請義務化がもたらしたもの

この業界にとって、近年最も大きな制度変更が相続登記の申請義務化です。法務省の案内によれば、令和6年4月1日から、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記をすることが法律上の義務となりました。正当な理由がないのに相続登記をしない場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。

また、遺産分割が難しい場合に備えて相続人申告登記という制度が設けられました。相続人が単独で、登記簿上の所有者の相続人であること等を期限内(3年以内)に登記官に申し出ることで、義務を履行できる仕組みです。

この制度は、所有者不明土地の解消を目的とした民事基本法制の見直しの一環です。司法書士にとっては業務量が増える方向の変更であり、同時に、これまで手つかずだった長期未登記の不動産が表に出てくることを意味します。

事業承継の実務でも、この論点は無縁ではありません。会社の事業用不動産が先代名義や共有のまま残っているケースは珍しくなく、譲渡の準備段階でその整理が必要になります。「相続で承継した会社の売却」でも、名義の整理が実務上の前提になることを整理しています。手続き全体の流れは「事業承継の手続きの流れ」、許認可の承継については「M&Aで許認可はどうなるか」をご参照ください。

手続きの電子化と、事務所に求められる投資

登記や許認可の手続きは、オンライン申請への移行が進んできました。電子署名、電子委任状、オンラインでの本人確認といった仕組みが整備され、事務所側にもそれらに対応する環境が求められます。

電子化は、事務所にとって二面的です。移動と郵送の手間が減り、遠隔地の案件を受託しやすくなるという意味では追い風です。一方で、システムへの投資と、職員の習熟に時間がかかります。所長ひとりが対応できても、事務所全体で運用できなければ効率は上がりません。

また、電子化が進むほど、単純な書類作成の付加価値は下がっていきます。定型的な手続きの単価が上がりにくい構造のなかで、どの領域に軸足を置くかが、事務所ごとの分かれ道になっています。

経営環境の変化|定型業務と非定型業務の分かれ道

士業事務所の収益構造は、大きく二つに分けて考えることができます。

類型特徴
定型業務設立登記、役員変更登記、決算公告、車庫証明、各種届出など。件数を積み上げる業務で、電子化と価格競争の影響を受けやすい領域です。
非定型業務相続・遺言、成年後見、不動産取引の立会い、複雑な許認可、外国人在留資格、補助金申請支援など。個別性が高く、経験と信用が価値になる領域です。
継続的関与企業の顧問的な関与、定期的な許認可更新の受託など。売上が読めるという意味で安定性が高い領域です。

どの類型が主力かによって、事務所の収益の安定度は大きく変わります。定型業務の積み上げで成り立っている事務所は、件数が落ちれば売上が直撃します。反対に、継続的な関与や非定型業務の比率が高い事務所は、外部環境の変化に対して相対的に強いといえます。

人手の面では、他の士業と同じく採用が課題です。補助者・事務職員の確保が難しく、所長ご自身が実務を抱え込んでいる事務所は少なくありません。

事務所承継の観点|依頼者基盤・職員・有資格者

帝国データバンクの2025年調査では、国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。士業事務所も同じ課題を抱えており、有資格者である後継者を確保できないまま所長が高齢になるという状況は各地で見られます。

事務所の承継を検討する際に整理しておきたい論点は次のとおりです。

  • 依頼者・紹介元の構成——金融機関、不動産会社、ハウスメーカー、他士業などの紹介ルートがどこにあり、その関係が誰に紐づいているか。
  • 業務の内訳——定型・非定型・継続的関与の比率と、それぞれの単価。
  • 職員体制——補助者・事務職員の在籍数と勤続年数、有資格者の人数。
  • 所長の関与度——所長が直接担当している案件の割合。属人性が高いほど、承継後の継続性について丁寧な設計が必要です。
  • 形態——個人事務所か法人か。法人であれば持分の移転という形が取りやすくなります。
  • システムと記録の保管——申請システム、顧客管理、過年度の記録の保管状況。守秘義務の取扱いを含め、引継ぎの設計に直結します。

司法書士事務所・行政書士事務所の承継は、司法書士法・行政書士法および各連合会・単位会の規則に沿って進める必要があります。具体的な進め方については、所属される会および専門家に必ずご確認ください。

まとめ|依頼が続いているうちに

相続登記の義務化により、司法書士の業務には新しい流れが生まれました。行政書士も、許認可や在留資格をはじめ、社会の変化に応じて業務領域を広げています。制度が動いている局面は、事務所にとって機会でもあります。

一方で、所長個人の信用と経験で成り立っている事務所ほど、承継の設計は難しくなります。依頼が続き、職員が在籍しているうちであれば、事務所の機能を引き継ぐ道はあります。依頼が細り、職員が離れてからでは、その道は狭まります。

当社プラチナパートナーズは、成功報酬型のもと、士業事務所を含む中小企業・事業体の承継のご相談を承っています。守秘義務を徹底のうえ、初期の整理から対応いたします。

本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。

よくあるご質問

A.誰に紐づいているかによります。整理すべきは、金融機関、不動産会社、ハウスメーカー、他士業などの紹介ルートがどこにあり、その関係が所長個人に紐づいているのか、事務所や担当者に紐づいているのかという点です。紹介元ごとの件数と売上、窓口になっている人、関係が始まった時期を一覧にしてください。所長が直接担当している案件の割合が高いほど、承継後の継続性について丁寧な設計が必要になります。一定期間、所長が関与を続けながら紹介元に引き合わせていく形を取ることもあります。進め方は所属される会の規則に沿う必要がありますので、会および専門家にご確認ください。
A.関係します。法務省の案内によれば、令和6年4月1日から、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記をすることが法律上の義務となり、正当な理由がないのに登記をしない場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。遺産分割が難しい場合には、相続人が単独で期限内に申し出ることで義務を履行できる相続人申告登記の制度も設けられました。会社の事業用不動産が先代名義や共有のまま残っているケースは珍しくなく、譲渡の準備段階でその整理が必要になります。名義の整理には時間がかかるため、検討の初期に確認しておくことをおすすめします。
A.収益の類型を分けて示してください。事務所の収益は、設立登記や役員変更登記などの定型業務、相続・遺言や複雑な許認可などの非定型業務、企業の顧問的な関与や定期的な許認可更新の受託といった継続的関与の三つに大きく分けられます。定型業務の積み上げで成り立っている事務所は、件数が落ちれば売上が直撃します。一方、継続的関与や非定型業務の比率が高い事務所は外部環境の変化に相対的に強いといえます。三つの比率とそれぞれの単価、そして直近数期の推移を示せば、収益の安定度を具体的に説明できます。
A.形態によって取りやすい方法が変わります。法人であれば持分の移転という形が取りやすくなりますが、個人事務所の場合は手続の組み立てが異なります。あわせて整理しておきたいのは、補助者・事務職員の在籍数と勤続年数、有資格者の人数、申請システムや顧客管理、過年度の記録の保管状況です。記録の引継ぎは守秘義務の取扱いを含めて設計が必要になるため、早い段階で論点として押さえてください。司法書士事務所・行政書士事務所の承継は司法書士法・行政書士法および各連合会・単位会の規則に沿って進める必要がありますので、具体的な進め方は所属される会および専門家に必ずご確認ください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら