Web制作とデジタル広告は、隣接しながら性質の異なる二つの事業です。制作は成果物を納める請負に近く、広告運用は継続的に手を動かす役務に近い。この違いは、収益の安定性にも、事業の評価にも直結します。本稿では、広告費の構造変化を数字で確認したうえで、両者を取り巻く環境と、承継の場面で論点になることを整理します。

広告費の構造|インターネットが初の過半数に

業界の全体像を示す統計として広く参照されるのが、電通が毎年公表している「日本の広告費」です。2026年3月5日に発表された「2025年 日本の広告費」によると、2025年の日本の総広告費は8兆623億円(前年比105.1%)で、2021年から5年連続の成長、4年連続で過去最高を更新しました。

このうちインターネット広告費は4兆459億円(前年比110.8%)で、前年より3,942億円増加し、1996年の推定開始以来はじめて4兆円を超えました。そして、総広告費に占めるインターネット広告費の構成比は50.2%となり、はじめて過半数に達しています。

広告費の半分以上がインターネットに向かうという事実は、Web制作会社とデジタル広告事業者にとって追い風です。同時に、この市場に参入する事業者も増え続けているということでもあります。

なお、この統計は民間企業が推定・公表しているものであり、公的統計ではありません。数値の性質(推定値であること)を踏まえて参照する必要があります。

制作の仕事はどこへ向かっているか

Web制作の仕事の中身は、この10年で大きく変わりました。かつては「ホームページを作る」ことが依頼の中心でしたが、現在は、作った後にどう成果を上げるかまでを含めた依頼が増えています。

この変化は、収益構造の変化を意味します。制作費を一度受け取って終わる関係から、公開後の運用・改善・広告運用まで継続的に関与する関係へ。後者のほうが収益は安定し、事業としての価値も高く評価されます。

一方で、制作そのものの単価には下押し圧力がかかっています。テンプレートやノーコードのツールが普及し、簡易なサイトであれば専門の事業者に依頼しなくても形にできるようになったためです。生成AIの活用が広がれば、この傾向はさらに強まる可能性があります。

したがって、Web制作会社の中期的な立ち位置は、二つに分かれつつあります。制作の効率を極限まで高めて量で戦う方向か、事業の課題を理解して成果まで責任を持つ方向か。中間の位置——「そこそこの品質のサイトを、そこそこの価格で作る」——が最も難しくなっているというのが、多くの事業者の実感ではないでしょうか。

受注構造の変化と、2026年施行の取適法

Web制作・広告制作の仕事は、広告主から直接受注する場合と、広告会社や元請けの制作会社から受注する場合があります。後者の場合、いわゆる下請けの立場に置かれることになります。

この取引関係に直接影響する制度改正が、2026年に施行されました。公正取引委員会によれば、従来の「下請代金支払遅延等防止法」が改正され、法律の名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(略称:中小受託取引適正化法、通称:取適法)に変更されました。公布は令和7年5月23日、施行は令和8年1月1日です。

同委員会の説明によれば、この改正は、発注者と受注者が対等な関係に基づき価格転嫁および取引の適正化を図ることを目的としています。適用基準には従業員基準が追加され、事業所管省庁での指導・助言が可能になるよう面的執行が強化されました。

Web制作は情報成果物作成委託として、広告運用は役務提供委託として、この法律の対象となる取引を含みます。制作の途中での仕様変更、検収の遅延、対価の減額といった実務上の課題が、法の枠組みのなかで整理される方向にあるということです。

中小受託取引適正化法の適用範囲・禁止行為・手続の詳細は、公正取引委員会および中小企業庁の公表資料をご確認ください。個別の取引への適用については専門家にご相談ください。

経営環境の変化|人材と単価

Web制作・デジタル広告の事業は、人がすべてです。ディレクター、デザイナー、エンジニア、広告運用担当——いずれも需要に対して供給が追いついていない職種であり、採用と定着が経営の中心課題になります。

厚生労働省「一般職業紹介状況」の令和8年7月分によると、全職業計の有効求人倍率(季節調整値)は1.18倍、正社員有効求人倍率は1.00倍でした。労働市場全体が緩んでいない状況で、専門職の採用競争は続いています。

単価については、前述のとおり制作の分野で下押し圧力がある一方、運用や戦略立案の分野では相対的に高い単価を維持しやすい構造があります。この二つを社内でどう組み合わせるかが、収益性を決めます。

また、広告運用を扱う場合は、媒体側の仕様変更に継続的に追随する必要があります。運用の自動化が進むなかで、人が担う価値をどこに置くかという問いは、事業者ごとに答えが分かれるところです。

事業承継の観点で何が論点になるか

帝国データバンクの2025年の調査では、国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。Web制作会社は創業から20年前後を迎えた事業者が多く、創業者が承継を考える時期に入っています。

承継を検討される際に整理しておきたいのは、次のような点です。

  • 売上の構成(制作の受注・保守運用・広告運用・自社サービス)と、それぞれの推移
  • 継続契約の件数、契約期間、月額の水準
  • 取引先の構成と、上位数社への売上依存度、取引年数
  • 直接受注と下請け受注の比率
  • ディレクター・デザイナー・エンジニアの人数、勤続年数、外注比率
  • 制作物の著作権の帰属(発注者に移転しているか、自社に残るか)
  • 使用しているフォント・素材・ライブラリのライセンス管理状況
  • 広告アカウントの管理権限と、その移管の可否

広告主側の受け皿となる広告代理店の評価軸については広告代理店のM&Aの記事で整理しています。とりわけ、継続契約の有無は評価を大きく左右します。同じ年商であっても、保守・運用の月額契約が積み上がっている会社と、単発の制作案件の積み重ねでできている会社とでは、引き継いだ後の売上の見通しがまったく違います。

また、案件が特定の担当者に紐づいているのか、会社として受注できているのかも確認されます。キーパーソンが退職すれば売上が消えるという構造であれば、その方の処遇をどう設計するかが交渉の中心になります。詳しくはWeb制作会社のM&Aの記事をご覧ください。

まとめ|継続案件が生きているうちに

Web制作・デジタル広告業界の現在地は、市場全体の追い風と、制作単価への下押し圧力という二つの力が同時に働いている状態です。2025年のインターネット広告費は4兆459億円で総広告費の50.2%を占め、初めて過半数に達しました。一方で、制作の効率化と自動化は進み、価値の重心は成果への関与へと移っています。

この局面では、制作に強い会社と運用・戦略に強い会社、あるいは特定の業界に強い会社同士が組むことで、提供できる範囲を広げるという判断が現実的な選択肢になります。

継続案件があり、制作の体制が生きているうちであれば、事業の価値は明確に伝わります。当社プラチナパートナーズは、成功報酬型のもと、Web制作・広告関連事業を含む中小企業の事業承継・会社売却をご支援しています。

本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。

よくあるご質問

A.引き継いだ後の売上の見通しがまったく違うため、評価は分かれます。同じ年商であっても、保守・運用の月額契約が積み上がっている会社と、単発の制作案件の積み重ねでできている会社とでは、翌期の売上の確からしさが異なるからです。まず売上を制作の受注・保守運用・広告運用・自社サービスに分け、継続契約については件数・契約期間・月額の水準を添えてください。制作単価にはテンプレートやノーコードの普及による下押し圧力がある一方、運用や戦略立案の分野では相対的に高い単価を維持しやすい構造があります。この二つの組み合わせ方が収益性を決めます。
A.移管の可否は確認事項になります。広告アカウントの管理権限と、その移管が可能かどうかは、承継の際に見られる項目です。名義が混在している場合、経営権が移ったときに誰の同意が必要になるかが案件ごとに変わります。まずはアカウントごとに名義・管理権限・請求の流れを一覧にしてください。あわせて、制作物の著作権の帰属(発注者に移転しているか自社に残るか)と、使用しているフォント・素材・ライブラリのライセンス管理状況も確認されます。ライセンスは見落とされやすく、後から論点になりやすい領域です。
A.その方の処遇をどう設計するかが交渉の中心になります。案件が特定の担当者に紐づいているのか、会社として受注できているのかは必ず確認されます。キーパーソンが退職すれば売上が消えるという構造であれば、買い手は継続性を前提にできません。準備としては、取引先ごとに誰が窓口で誰が実務を回しているかを可視化し、直接受注と下請け受注の比率、上位数社への売上依存度と取引年数を整理することです。採用環境も緩んでおらず、厚生労働省「一般職業紹介状況」の令和8年7月分では全職業計の有効求人倍率(季節調整値)は1.18倍、正社員有効求人倍率は1.00倍でした。残留の設計は早めに論点に乗せてください。
A.2026年に施行された制度が関係します。公正取引委員会によれば、従来の下請代金支払遅延等防止法が改正され、法律の名称は中小受託取引適正化法(通称:取適法)に変更されました。公布は令和7年5月23日、施行は令和8年1月1日です。適用基準には従業員基準が追加され、事業所管省庁での指導・助言が可能になるよう面的執行が強化されました。Web制作は情報成果物作成委託として、広告運用は役務提供委託として対象となる取引を含みます。制作途中での仕様変更、検収の遅延、対価の減額といった課題が法の枠組みで整理される方向にあります。適用範囲の詳細は公正取引委員会および中小企業庁の公表資料をご確認ください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら