買い手が外国企業である場合や、譲渡する会社が海外子会社を持っている場合、費用の構造は国内案件と同じではありません。為替、翻訳、現地の専門家、送金の手続——国内では意識しない項目が加わります。本稿では、海外が絡むM&Aで想定しておくべき費用の論点を整理します。なお、制度や実務は国によって大きく異なりますので、個別の判断は必ず現地の専門家および顧問税理士・弁護士にご確認ください。

仲介手数料の基準額と為替

まず、仲介手数料そのものです。譲渡対価が外貨建てで定められる場合、基準額をどの為替レートで円換算するかが論点になります。

契約から成約までには数か月から一年を要します。その間に為替が動けば、円換算した基準額は変わります。契約書に換算の基準日と参照するレートが定められていなければ、請求の段階で認識が食い違います。

確認しておくべきは、①換算の基準日(最終契約日か、決済日か)②参照するレート(仲値か、特定の金融機関の公表値か)③手数料そのものを円建てで請求するのか外貨建てなのかの三点です。

当社は移動総資産レーマン方式(基準額=株式価値+負債総額)を採用し、最低手数料を2,000万円(税別)としています。中間金は成功報酬額の10%で、成約時の成功報酬から全額を差し引きます(基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません)。ただし、基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません。外貨建ての案件では、換算の取り決めをご契約時に明記します。

翻訳と通訳の費用

国内案件では発生しない費用の筆頭が、翻訳と通訳です。金額としては見落とされがちですが、書類の量によっては相応の負担になります。

対象内容負担の傾向
企業概要書買い手に提示する会社の説明資料売り手側が用意することが多い
決算書・試算表財務資料一式売り手側。会計基準の説明も必要になり得る
デューデリジェンス資料契約書、規程、許認可、労務資料など量が多い。範囲の絞り込みが実務的
面談・交渉の通訳トップ面談、条件交渉案件により負担者が異なる
最終契約書正文をどの言語にするかの問題も生じる双方の弁護士が関与する

実務上の工夫としては、全部を訳さないことです。デューデリジェンスの資料は膨大になりますが、買い手が本当に必要とする範囲を絞り込めば、翻訳の量は大きく減らせます。買い手側の専門家と、対象範囲を早い段階ですり合わせてください。

もうひとつ、契約書の正文をどちらの言語にするかは、費用より重要な論点です。解釈が分かれた場合にどちらが優先するかを定める必要があり、これは法務の判断です。必ず弁護士にご確認ください。

現地の専門家に依頼する費用

海外子会社を含む譲渡では、その国の法務・税務・労務の確認が必要になります。日本の専門家だけでは完結しません。

典型的には、現地の法律事務所への法務調査の依頼、現地会計事務所への財務・税務調査の依頼、労務慣行の確認などです。費用は国と案件の規模によって大きく異なりますので、着手前に見積もりを取ることが不可欠です。

また、現地には手続そのものに時間を要する制度があることがあります。外資規制、事業許可の承継、当局への届出、競争法上の届出など、国によって要件は異なります。これらは費用というより期間の問題として現れ、期間が延びれば結果として関与する専門家の稼働も増えます。

したがって、海外要素がある案件では早い段階で全体の費用感を把握することが特に重要です。国内案件の感覚で予算を組むと、途中で見込みが崩れます。海外子会社がある場合の税務上の論点は「海外子会社がある会社の売却」でも整理しています。

送金・決済にかかる費用と手続

対価の受け取りそのものにも、国内にはない論点があります。

  • 海外送金の手数料——送金額に対しては小さいものの、中継銀行の手数料が差し引かれることがあります
  • 為替手数料——外貨を円に替える際のスプレッド。金額が大きいほど影響も大きくなります
  • 着金までの日数——即日とは限りません。クロージング当日の決済設計に影響します
  • 金融機関の確認手続——高額の海外送金では、資金の出所や取引の目的について確認を求められることがあります
  • 源泉徴収——相手国の制度により、支払時に源泉徴収されることがあります。租税条約の適用可否を含め、税理士にご確認ください

とくに着金までの日数は、決済の段取りに直結します。国内案件であれば「着金を確認して株券や書類を引き渡す」という同日決済が可能ですが、海外送金では時差や中継の関係で当日中に確認できないことがあります。エスクローの利用を含め、決済の方法を早い段階で設計する必要があります。

また、源泉徴収された税額をどう扱うかは、租税条約や外国税額控除の問題になります。手取り額に直接影響しますので、必ず税理士にご確認ください。

「海外だから高い」とは限らない

ここまで費用が増える要素を挙げてきましたが、海外案件が常に高くつくわけではありません

買い手が外国企業であっても、対象会社が国内で完結している事業であれば、デューデリジェンスの範囲は国内案件と大きく変わらないことがあります。増えるのは主に翻訳・通訳と、買い手側の意思決定に要する時間です。

一方で、費用が大きく増えるのは対象会社側に海外要素がある場合です。海外子会社、海外拠点、海外の取引先や許認可がある場合は、その国ごとの確認が必要になります。「買い手が海外」なのか「自社が海外に出ている」なのかで、費用の構造はまったく違うということです。

したがって、費用の見積もりを立てるときは、どちら側に海外要素があるのかを整理するところから始めてください。自社の事業が国内で完結しているなら、過度に身構える必要はありません。

着手前に確認しておくこと

海外が絡む可能性がある場合に、費用の観点で確認しておくべき項目をまとめます。

  • 基準額の換算——外貨建ての場合、いつのレートで円換算するか
  • 翻訳の範囲と負担者——どの資料を訳すか。費用は誰が持つか
  • 現地専門家の要否——どの国の、どの分野の確認が必要か
  • 決済の方法——着金の確認と引渡しの順序をどう設計するか
  • 源泉徴収と租税条約——手取りにどう影響するか
  • 期間の見込み——当局への届出や許認可の承継に要する期間

これらは、案件が具体化してから考えると手遅れになりがちです。買い手候補に外国企業が含まれる可能性がある段階で、おおまかな費用感と期間の見込みを立てておくことをお勧めします。

当社は、ご相談の初期段階で想定される費用の全体像をお伝えし、ご契約の前に総額の目安を書面でご提示しています。海外要素がある場合は、必要となる専門家の範囲についても率直にご説明します。各国の制度・税務の判断は現地の専門家および顧問税理士・弁護士にご確認いただくことを前提としています。

よくあるご質問

A.円換算のうえで基準額を算定することになりますが、換算の基準日と参照するレートを契約で定めておく必要があります。契約から成約まで数か月を要するため、その間の為替変動で金額が変わり得るからです。当社では外貨建ての案件について、換算の取り決めをご契約時に明記しています。
A.対象会社の事業が国内で完結していれば、増えるのは主に翻訳・通訳の費用で、デューデリジェンスの範囲自体は国内案件と大きく変わらないことがあります。費用が大きく増えるのは、自社側に海外子会社や海外拠点がある場合です。どちら側に海外要素があるかで構造が異なりますので、まずそこを整理してください。
A.相手国の制度により、支払時に源泉徴収される場合があります。租税条約の適用や外国税額控除によって最終的な負担は変わり得ますが、いずれも手取り額に直接影響します。国ごとに取扱いが異なりますので、必ず顧問税理士および現地の専門家にご確認ください。

Free Consultation

海外要素がある案件も、費用から整理します。

どこにどれだけ費用がかかるのかを、着手の前に率直にご説明します。ご相談は無料です。
メール(info@platinumpartners.jp)でも承ります。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら