製造、建設、農業、介護、宿泊、飲食など、外国人材が働く会社は幅広い業種に及びます。こうした会社を譲り受ける場合、在留資格に関する手続きと、受入体制の引き継ぎが統合の論点に加わります。手続きの不備は、本人の在留資格に影響を及ぼしかねない性質のものであり、通常の労務対応より慎重な確認が必要です。本稿では、デューデリジェンスでの確認事項、譲渡の方式による違い、統合後の体制整備までを整理します。なお、制度の運用は変更されることがあり、個別の判断は必ず専門家にご確認ください。
まず、在籍状況を正確に把握する
外国人材の受入れには複数の制度があり、それぞれ手続きも要件も異なります。まずは、どの在留資格の方が何名在籍しているかを正確に把握することから始めます。
確認すべきは、在留資格の種類、在留期間の満了日、資格に応じた活動内容と実際の業務が一致しているか、そして雇用の形態です。直接雇用か、派遣か、請負か。受入れの枠組みによって、必要な手続きも関与する機関も変わります。
技能実習の制度を利用している場合は、監理団体との関係、実習計画の内容と認定の状況、実習の進捗段階についても確認が必要です。特定技能の場合は、支援計画の内容と、支援を自社で行っているか登録支援機関に委託しているかを把握します。
これらは、デューデリジェンスの段階で書面をもって確認すべき事項です。人数だけを聞いて済ませると、後から資格と業務の不一致や、手続きの未了が判明することがあります。
譲渡の方式によって手続きが変わる
在留資格は、本人と受入れ機関(勤務先)の関係を前提に付与されています。したがって、会社という法人格が存続するかどうかで、必要な手続きが大きく変わります。
株式譲渡の場合、勤務先の法人そのものは変わりません。株主が変わっても、雇用契約も在留資格の前提も維持されるのが基本です。ただし、事業内容や業務の内容が変わる場合には、資格に応じた活動との整合を確認する必要があります。
事業譲渡や会社分割の場合は、勤務先となる法人が変わるため、届出や手続きが必要になる場面があります。技能実習や特定技能の枠組みでは、受入れ機関の変更に伴う手続きが生じることがあり、準備に一定の期間を要します。
この点は、スキームを決める前に確認しておくべき論点です。税務や法務の観点だけでスキームを選定した後に、受入れの手続きが間に合わないことが判明する、という事態は避けたいところです。
デューデリジェンスで見落とされやすい点
労務デューデリジェンスの一般的な項目に加えて、外国人材が在籍する場合に確認したい点を挙げます。
| 確認項目 | 着眼点 |
|---|---|
| 資格と業務の一致 | 在留資格で認められた活動と、実際に従事している業務が合っているか |
| 労働条件 | 日本人従業員と同等以上の待遇となっているか。賃金台帳との突合 |
| 労働時間の管理 | 時間外労働の記録、割増賃金の計算が適正か |
| 社会保険 | 加入状況に漏れがないか |
| 住居・生活支援 | 社宅の提供、費用負担の内容、契約の名義 |
| 監理団体・支援機関 | 契約内容、費用、担当者、これまでの指導の経緯 |
| 行政の指導歴 | 過去に指摘や指導を受けた経緯がないか |
特に一つ目は重要です。人手が足りない現場では、本来の資格で認められた業務以外の作業に従事している状況が生じることがあります。これは本人の在留資格に関わる問題であり、買収後に把握した場合、速やかな是正が必要になります。
住居に関する項目も見落とされやすい領域です。社宅の賃貸借契約が前経営者の個人名義になっている、費用の徴収額の根拠が不明確、といった状況が見つかることがあります。
本人への説明をどうするか
譲渡の開示にあたり、外国人材への説明には固有の配慮が必要です。日本語での説明会だけでは、内容が正確に伝わらない可能性があります。
とりわけ本人にとって重大な関心事は、在留資格と雇用が継続するかという点です。ここが曖昧なまま伝わると、強い不安を招き、場合によっては帰国や転職の検討につながります。母語での説明資料を用意する、やさしい日本語で書面を作る、必要に応じて通訳を手配するといった対応を検討してください。
監理団体や登録支援機関が関与している場合は、その担当者を通じた説明も有効です。日頃から相談を受けている立場であり、本人にとって理解しやすい経路になります。
また、説明の後に個別の質問を受ける場を設けてください。集団の場では質問しにくいうえ、言語の制約もあります。少人数、あるいは個別で確認する機会が、誤解の解消に有効です。
統合後の受入体制をどう整えるか
買収後は、受入れの体制を買い手側で維持・整備することになります。確認したいのは次の点です。
- 担当者が誰か——手続きや相談の窓口を一人に依存していないか
- 期限の管理——在留期間の更新時期が管理されているか
- 記録の保管——必要な書類が整理され、所在が明確になっているか
- 外部の専門家——手続きを委託している場合、契約が継続しているか
- 相談の経路——本人が困ったときに相談できる相手がいるか
実務上、最も注意が必要なのは一つ目です。外国人材の受入れに関する手続きを、総務の担当者が一人で担っているケースは少なくありません。その方が退職すると、期限の管理も手続きの経緯も失われます。買収後の早い段階で、手順を文書化し、複数の人が把握できる状態にしてください。
また、統合に伴って配置や業務内容を変更する場合は、在留資格で認められた活動との整合を事前に確認する必要があります。日本人従業員と同じ感覚で配置転換を行うと、思わぬ問題が生じることがあります。
売り手として準備しておくこと
外国人材が在籍する会社を譲渡する場合、売り手の側で整えておくべきことがあります。
第一に、書類の整理です。在留カードの写し、雇用契約書、実習計画や支援計画、監理団体・登録支援機関との契約書、住居に関する契約。これらが揃っていれば、デューデリジェンスは円滑に進みます。散在している場合、確認に時間がかかり、買い手の不安を招きます。
第二に、資格と業務の一致の点検です。実際の作業内容が資格の範囲に収まっているかを、譲渡の検討段階で確認してください。問題があれば、譲渡の前に是正するほうが、条件交渉への影響を小さくできます。
第三に、属人化の解消です。手続きや相談対応を一人が抱えている場合、その方の退職リスクがそのまま事業のリスクになります。手順を文書化し、期限を一覧化しておくことは、企業価値の観点からも意味があります。
外国人材が事業の中核を担っている会社では、その受入体制の安定性そのものが評価の対象になります。整備された状態で譲渡に臨むことが、円滑な引き継ぎにつながります。