許認可の要件になっている資格、取引の前提になっている資格。その人が辞めた瞬間に、事業が止まります。買収後に押さえておくべき管理の実務を整理します。
まず、誰が何を持っているかを一覧にする
買収後の早い段階で作ってください。列は次のとおりです。
氏名 / 資格の名称 / 登録番号 / 取得日 / 更新期限 / 何のために必要か。
最後の列が重要です。許認可の要件なのか、取引先からの要求なのか、業務上あると便利なだけなのか。これを分けないと、優先順位がつきません。
そして、「その資格を持っている人が何人いるか」を数えてください。1人しかいない資格が、リスクの所在です。
許認可の要件になっている資格
最も重いのがこれです。欠けると許可が維持できません。
建設業の専任技術者と経営業務の管理責任者、宅建業の宅地建物取引士、産業廃棄物の技術管理者、介護事業の管理者とサービス提供責任者、旅行業の旅行業務取扱管理者、運送業の運行管理者と整備管理者。
これらは「代わりの人がいない」状態を作ってはいけません。
また、常勤性が要件になっているものが多くあります。他社と兼務している、名前だけ置いている、という状態は認められません。実態を確認してください。
常勤性の確認は実務で問われる
行政の調査で実際に見られる点です。
確認される資料は、健康保険証(その会社で加入しているか)、住民税の特別徴収、出勤簿、給与台帳など。
「登録はしているが、実際にはほとんど出社していない」という状態は、虚偽の届出と判断される可能性があります。許可の取消しに至ることもあります。
買収前のデューデリジェンスで、登録されている有資格者が実際に常勤しているかを確認してください。書類だけでなく、本人に会うことをお勧めします。
退職の申し出は、突然来る
実務で最も困るのがこれです。要件を満たす唯一の人が辞めると言い出す。
買収直後は、とくに起こりやすい時期です。体制が変わることへの不安、待遇への懸念。
備えとしては二つです。
① 早い段階で面談する。買収後すぐに、有資格者とは個別に話してください。待遇と今後の役割を伝え、不安があれば聞く。
② 予備を作る。資格の取得には時間がかかります。「辞めると言われてから」では間に合いません。
育てるか、採るか
予備を確保する方法は二つです。
社内で育てる。受験資格に実務経験の年数が求められるものが多く、数年単位の計画になります。費用を会社が負担し、勉強の時間を業務として認める、といった支援が要ります。
外から採る。即戦力ですが、需給が逼迫している資格では採用が難しく、報酬水準も上がります。
実務では、両方を並行させます。育成には時間がかかるため、当面は採用で埋め、長期では社内で育てる。
この計画を、買収後の事業計画に入れておいてください。費用が発生します。
資格手当の設計
有資格者を維持するための、直接的な手段です。
買収前から資格手当がある会社もあれば、無い会社もあります。本社の制度と違う場合、統合の論点になります。
注意点は、手当を下げることは不利益変更にあたることです。本社に資格手当が無いからといって、廃止することはできません。
逆に、手当を新設・増額するのは有利な変更なので、進めやすい。要件になっている資格については、手当を厚くする合理性があります。
就業規則を統合する前にも併せてご覧ください。
更新を管理する
資格には更新が必要なものがあります。
宅地建物取引士証の更新(法定講習)、運行管理者の講習、技術士や施工管理技士の継続教育、各種の免許の更新。
本人任せにすると、切れます。本人が忘れる、あるいは費用を自分で出すのが嫌で放置する。
対応は、会社が期限を管理し、費用を負担することです。許認可の要件になっている資格なら、会社の費用で受講させるのが合理的です。
年間の手続きカレンダーに、資格の更新時期も入れてください。
前経営者が資格者だった場合
中小企業で頻繁にある形です。社長個人が資格を持ち、要件を満たしていた。
退任すれば要件を欠きます。引き継ぎ期間中に後任を確保しなければなりません。
実務的な選択肢は、①有資格者を採用する ②社内の人材に取得させる(時間がかかる) ③前経営者に一定期間、常勤で残ってもらう。
③を選ぶ場合、常勤の実態が必要です。名前だけでは要件を満たしません。報酬と勤務日数を、実態に合わせて設計してください。
この論点は、買収の可否そのものに関わります。デューデリジェンスで必ず確認してください。
取引先が求める資格も確認する
許認可以外にも、取引の前提になっている資格があります。
元請から求められる施工管理技士、ISOの内部監査員、特定の設備の取扱資格、食品衛生責任者、危険物取扱者。
これらは法令上の要件ではないものの、欠けると受注できなくなります。
確認の仕方は、主要な取引先との契約書と、過去の入札・見積の条件を見ることです。
現場の担当者に聞くのが最も早い。「この資格が無いと、どの仕事が受けられなくなりますか」と聞いてください。許認可を切らさないも併せてご覧ください。