制度がつくられた直接のきっかけの1つが、「不適切な買い手が排除されていない」という問題でした。 募集要領の事業目的にも、経営者保証が解除されない事案が報道で取り上げられたことが明記されています。
資料2のサンプル問題で禁忌肢とされたのも、譲り受け側の反社会的組織との交友関係を確認しながら、 成約を優先して説明しなかった、という選択肢でした。この範囲は、試験の中心にあります。
調査は5項目に整理されている
ガイドラインは、譲り受け側に対する調査を表形式で示しています。項目は5つです。
| 調査項目 | 調査の概要(例) |
|---|---|
| 財務状況に関する調査 | 譲り受け側の財務諸表の確認。債務超過・赤字でないか、現預金の額等、M&Aを実施できる財務状況にあるか |
| コンプライアンスに関する調査 | Web上の不芳情報検索、社内DB、業界内の情報共有の仕組みの確認、外部DB・調査会社の活用。反社会的勢力への該当性やM&Aに関するトラブルの有無 |
| 事業実態に関する調査 | 商業登記簿の確認、Web地図閲覧、事業所の訪問。事業実態があるか、依頼者が代表者又は役員として登記されているか(契約締結権限を有する者か) |
| 最終契約の実行可能性の調査 | 財務諸表・預金通帳・融資証明書等の確認。譲渡対価の支払等について、最終契約を実行できる状況にあるか |
| その他調査 | ヒアリング、過去の依頼者からのクレームの有無、情報共有の仕組みにおける情報の有無。過去のM&Aで最終契約の不履行等のトラブルがないか |
コンプライアンス調査の対象も明記されています。譲り受け側そのものだけでなく、 経営者、役員、主要株主、関連会社まで含みます。法人の登記だけ見て終わり、ではありません。
調査の粒度は案件によって変わる
一律ではない、という点も明示されています。
譲り受け側の信頼性や譲り渡し側の財務状況等によって必要となる調査の粒度は異なると考えられる。 特に、譲り渡し側が債務超過の場合等、M&Aの成立において譲り受け側の信用が特に重要となるケースにおいては 特に慎重な調査の実施が必要であり、この場合においては譲り受け側の財務状況について、 少なくとも決算公告や税務申告書の確認により適切な確認を実施することが求められる。
逆に、保証債務が移行せず、簿外債務を遮断できる事業譲渡の場合等、取引の形態によっては調査の必要性が低い場合も 想定されるとしています。スキームによってリスクの所在が変わるという、実務科目とつながる論点です。
調査の「概要」は、契約前に説明しなければならない
調査は内部で完結させるものではありません。
依頼者となる譲り渡し側に対しては、仲介契約・FA契約締結前に、 譲り受け側の調査の概要について、説明しなければならない。
さらに、説明を踏まえて譲り渡し側から依頼があれば、調査内容の見直しを検討しなければならないとされ、 方法を変更する場合には変更の内容を理由とともに説明しなければならないとも書かれています。
そして結果の扱いです。
遅くとも最終契約の締結前までに、調査を実施し、その結果リスク事項を検出した場合には、 開示可能な範囲で調査の結果を譲り渡し側に報告し、取引実行の可否や最終契約に規定すべき条項の内容を協議しなければならない。
「調べた結果を言わない」は、ここで明確に否定されています。禁忌肢のサンプルが、まさにこの規定に反する形でした。
「組織的な判断」という要件
不適切な行為に係る情報を得た場合の対応は、より踏み込んでいます。
最終契約の不履行等の不適切な譲り受け側に係る情報を取得した場合には、 当該情報を担当者レベルに留めず、組織的に共有し、 当該譲り受け側に対するマッチング支援の提供を慎重に検討するための体制を構築しなければならない。
そのうえで、それでも支援する場合の条件が定義されます。
仮に実施する場合には、組織的な判断(明確化された基準の下での一担当者限りではなく組織的なプロセスによる判断であって、 組織的に記録され、事後に検証可能であるものをいう。)によらなければならない。
「組織的な判断」の定義が括弧書きで与えられているのが重要です。 ①明確化された基準 ②一担当者限りでないプロセス ③記録 ④事後の検証可能性——この4要素です。 「上司に口頭で相談した」は、この定義を満たしません。
倫理科目で「担当者限りで判断する」選択肢がほぼ誤りになるのは、この規定が背景にあります。
業界内での情報共有と、参加していないことの説明
個社の取組には限界があるため、ガイドラインは業界横断の仕組みを求めています。
自らが支援した譲り受け側について、最終契約の不履行等の不適切な行為を働く者に係る情報を 業界内で共有する仕組みの構築が期待される。
そして、見落とされやすい義務があります。
仲介者・FAは、仲介契約・FA契約締結前に、このような業界内での情報共有の仕組みへの 参加有無(参加していない場合にはその旨)について、依頼者に対して説明しなければならない。
参加していないことも説明対象です。「やっていないことは言わなくてよい」ではありません。 契約締結前に説明すべき事項の一覧にも、この項目が明記されています。
試験では、「説明しなければならない」と書かれている事項を押さえるのが効率的です。 ガイドラインは、努力目標(望ましい)と義務(しなければならない)を書き分けています。
この記事について(出典と免責)
本記事は、中小企業庁が公表した資料をもとに、株式会社プラチナパートナーズが作成したものです。 本試験の実施主体・運営事業者が作成・監修・承認したものではありません。
試験の名称・科目構成・出題数・出題範囲・合格基準・実施時期等は、2026年9月時点で公表されている 検討会資料および企画競争募集要領に「想定」「現状案」として示された内容です。 試験名は資料上「中小M&A資格試験(仮称)」と表記されています。実際の試験と異なる可能性がありますので、 受験にあたっては必ず公式の試験案内をご確認ください。
本記事の法務・税務・会計に関する記述は一般的な制度の説明です。 個別の案件における判断は、必ず弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。
出典:「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(中小企業庁・第4回 中小M&A市場の改革に向けた検討会 資料2、2026年3月17日)/ 同 資料3「試験科目詳細」/ 「中小M&A資格試験実施事業」企画競争募集要領(中小企業庁、2026年3月27日)/ 中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁、2024年8月)/ 中小M&A専門人材(個人)向け 使命・倫理行動規範・知識スキルマップ をもとに当社が作成。
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中小M&A資格試験 合格テキスト|一次資料で体系的に学ぶ、4科目の要点
同じシリーズの基本書です(2026年10月3日刊行)。序章で制度創設の経緯・4科目と配点・合格基準・禁忌肢・CBTでの実施形式・学習プランを示し、第1章 M&A実務/第2章 中小M&A市場動向・中小企業政策/第3章 財務・税務/第4章 法務/第5章 倫理・行動規範の順に解説しています。付録は用語集・重要数値一覧・スキーム比較表・出題範囲対応表・学習記録シート。数値・期間・条文には出典を併記し、制度の数値は2026年10月1日時点です。
問題集で問われ方を確かめ、間違えた問から本書の該当節に戻る形を想定しています。付録の出題範囲対応表が、2冊の往復の索引になります。
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