資料3の税務基礎には、●が付いた項目のほかに 「源泉徴収制度に関する基礎知識」と「不動産評価に関する税務知識」が並んでいます。
どちらも地味ですが、中小M&Aの現場では実際に問題になる2項目です。
源泉徴収|払う側の義務
源泉徴収は、支払う側が、あらかじめ税額を差し引いて国に納める仕組みです。 給与、賞与、退職金、一定の報酬などが対象になります。
重要なのは、これが支払う側の義務だという点です。 受け取る人の問題ではなく、会社の義務です。
M&Aで関わるのは、主に役員退職金の場面です。 資料3では「役員退職金に関する税務知識」に●が付いていますが、 支払いには源泉徴収が伴います。
退職金の源泉徴収では、受給者が「退職所得の受給に関する申告書」を提出しているかどうかで 取り扱いが変わる仕組みが設けられています。 手続の有無で結果が変わるため、実務では確認が必要な事項です。
具体的な計算方法・税率は税法に定められています。 個別の計算は税理士の領域であり、支援者が試算してはいけません (税理士法第52条。無償でも不可)。
源泉漏れは、税務DDの検出事項になる
中小企業では、源泉徴収が適切に行われていないことがあります。典型は次のようなものです。
- 個人への外注費……実態が給与に近いのに、源泉徴収されていない
- 士業への報酬……源泉徴収が必要な報酬で、漏れている
- 経済的利益の供与……社宅、貸付金の利息相当額などが給与として扱われるべき場合
- 非居住者への支払い……別の取扱いが必要な場合
これらが見つかると、会社が過去分を納付することになり、 加算税・延滞税が生じる可能性もあります。
つまり、簿外債務です。決算書に載っていないのに、買収後に支払いが生じる。 だから税務DDの検出事項になり、実態純資産を押し下げ、価格に影響します。
そして表明保証につながります。「源泉徴収を含め、税務申告および納付は適正に行われている」は 典型的な表明保証事項です。DDをやらなければ、このリスクは売主が負い続けます。
資料3で「税務DD 調査事項に関する税務知識」に●が付いているのは、 こうした論点を調査事項として挙げられるかが問われるためです。
不動産評価|1つの土地に、複数の評価額がある
中小企業は、不動産を持っていることが多くあります。 そして不動産の「価格」は1つではありません。
| 評価 | 何のためのものか |
|---|---|
| 簿価 | 取得時の価額をもとにした帳簿上の金額 |
| 固定資産税評価額 | 固定資産税・不動産取得税・登録免許税の算定に用いられる |
| 相続税評価額(路線価等) | 相続税・贈与税の算定に用いられる |
| 時価(実勢価格) | 実際に売買される価格。不動産鑑定によることもある |
M&Aで問題になるのは、簿価と時価のずれです。
何十年も前に取得した土地が、取得時の価額のまま帳簿に載っている—— これは中小企業で非常によくあります。 含み益があれば実態純資産は増え、含み損があれば減ります。
資料3の財務に「財務DD 調査事項に関する財務知識(●)」があり、 税務に「不動産評価に関する税務知識」があるのは、 同じ不動産を、財務の目と税務の目の両方で見る必要があるからです。
不動産が絡むと、税も登記も動く
不動産が実際に移転するかどうかは、スキームで決まります。
- 株式譲渡……会社が持ったまま。名義は動かない
- 事業譲渡・会社分割・合併……不動産が移転し得る
移転すれば、不動産取得税と登録免許税が関わり、 登記手続が必要になります。
ガイドラインは、クロージングについてこう書いています。
不動産の所有権移転・担保抹消に伴う登記手続等を要することもあるため、 クロージングにおいて登記必要書類の授受等を行うこともある。 専門的な知見を要すると判断した場合には、司法書士等の士業等専門家等にも関与を求めることが必要である。
担保抹消にも触れられています。 会社の借入に不動産が担保として入っている場合、その処理も必要になります。 これは経営者保証の論点とも連動します。
もう1つ、中小M&A特有の論点があります。 事業に使っていない不動産(オーナーの自宅、投資用物件など)が会社名義になっている場合です。
買い手は事業を買いたいのであって、不動産投資をしたいわけではありません。 そこで、譲渡前に切り離す——会社分割で切り出す、オーナーが買い取る、といった整理が検討されます。 ガイドラインが「譲り渡し側の資産・貸付金の最終契約後整理」を 「認識した段階で対応するリスク」に挙げているのは、この処理をめぐる論点です。
試験で押さえる形
- 源泉徴収は支払う側の義務。役員退職金の支払いにも伴う
- 退職金の源泉徴収では「退職所得の受給に関する申告書」の提出の有無で取扱いが変わる
- 源泉漏れは簿外債務になり、税務DDの検出事項・表明保証の対象になる
- 不動産の評価は簿価/固定資産税評価額/相続税評価額/時価と複数ある
- 簿価と時価のずれが実態純資産に効く
- 不動産が移転するスキームでは、不動産取得税・登録免許税・登記が関わる
- 事業に使っていない不動産は、譲渡前の整理が論点になる
資料3では、この2項目に●は付いていません。 ●が付いているのは各種税金の基本部分と役員退職金、そして税務DDでした。
ただし、どちらも実務では必ず出てくる論点です。 気づいて、税理士・不動産鑑定士・司法書士につなぐ——ここが支援者の役割になります。
本記事は一般的な制度の説明です。源泉徴収の計算、不動産の評価、税務上の判断については、 必ず税理士・不動産鑑定士等の専門家にご確認ください。
この記事について(出典と免責)
本記事は、中小企業庁が公表した資料をもとに、株式会社プラチナパートナーズが作成したものです。 本試験の実施主体・運営事業者が作成・監修・承認したものではありません。
試験の名称・科目構成・出題数・出題範囲・合格基準・実施時期等は、2026年9月時点で公表されている 検討会資料および企画競争募集要領に「想定」「現状案」として示された内容です。 試験名は資料上「中小M&A資格試験(仮称)」と表記されています。実際の試験と異なる可能性がありますので、 受験にあたっては必ず公式の試験案内をご確認ください。
本記事の法務・税務・会計に関する記述は一般的な制度の説明です。 個別の案件における判断は、必ず弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。
出典:「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(中小企業庁・第4回 中小M&A市場の改革に向けた検討会 資料2、2026年3月17日)/ 同 資料3「試験科目詳細」/ 「中小M&A資格試験実施事業」企画競争募集要領(中小企業庁、2026年3月27日)/ 中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁、2024年8月)/ 中小M&A専門人材(個人)向け 使命・倫理行動規範・知識スキルマップ をもとに当社が作成。
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中小M&A資格試験 合格テキスト|一次資料で体系的に学ぶ、4科目の要点
同じシリーズの基本書です(2026年10月3日刊行)。序章で制度創設の経緯・4科目と配点・合格基準・禁忌肢・CBTでの実施形式・学習プランを示し、第1章 M&A実務/第2章 中小M&A市場動向・中小企業政策/第3章 財務・税務/第4章 法務/第5章 倫理・行動規範の順に解説しています。付録は用語集・重要数値一覧・スキーム比較表・出題範囲対応表・学習記録シート。数値・期間・条文には出典を併記し、制度の数値は2026年10月1日時点です。
問題集で問われ方を確かめ、間違えた問から本書の該当節に戻る形を想定しています。付録の出題範囲対応表が、2冊の往復の索引になります。
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