中小M&A資格試験の出題範囲を読むと、ある一点に収束します。 中小M&Aガイドライン(第3版)です。
配点25%の「倫理・行動規範」はほぼこの文書から出ますし、35〜40%を占める「M&A実務」の各工程にも、 この文書の行動指針がそのまま対応しています。つまり、配点の6割がここに乗っています。
139ページあります。全部を同じ密度で読む必要はありません。どこを読むべきかを、構成から整理します。
何のための文書か
中小M&Aガイドラインは、中小企業庁が2020年3月に策定し、2023年9月に第2版、 2024年8月に第3版が公表された文書です。
特徴は、法律ではないのに、事実上の規範として働いている点にあります。 2021年8月に創設されたM&A支援機関登録制度が、このガイドラインの遵守を宣言した仲介者・FAを登録・公表する仕組みだからです。 登録がなければ事業承継・M&A支援補助金の対象になりません。
資格試験は、この構造の「個人」の層を作るものです。組織がガイドライン遵守を宣言するだけでなく、 実際に依頼者の前に座る担当者個人が、その中身を理解しているかを問う。だから試験の出典がガイドラインになります。
2つの章でできている|読者が違う
ガイドラインは大きく2章構成です。
- 第1章 後継者不在の中小企業向けの手引き(26〜76ページ)……依頼者側、つまり会社を譲り渡す経営者に向けた説明。中小M&Aの進め方、仲介者・FAの選び方、手数料の考え方
- 第2章 支援機関向けの基本事項(77〜139ページ)……支援機関に向けた規範。ここが試験の中心
第2章はさらに支援機関の種類ごとに分かれます。
- I 支援機関としての基本姿勢(78ページ)……全支援機関に共通
- II M&A専門業者(79〜105ページ)……仲介者・FAの規範。試験で最も重い
- III 金融機関(105ページ〜)/IV 商工団体(109ページ〜)/V 士業等専門家(111ページ〜)
試験の受験者像は「仲介者・FA等のM&A専門業者又は支援機関に所属する仲介・FA業務に関わる者」なので、 第2章IIの27ページが、最も密度の高い範囲になります。
第2章IIの中身|9つの節
M&A専門業者の節は、次の構成です。
- M&A専門業者による中小M&A支援の特色(79ページ)
- 行動指針等の策定の必要性(80ページ)
- 支援の質の確保・向上に向けた取組(80〜83ページ)
- 各工程の具体的な行動指針(84〜98ページ)……意思決定から、クロージング後まで10工程
- 仲介者における利益相反のリスクと現実的な対応策(98ページ〜)
- 不適切な譲り受け側の排除に向けた取組(100〜103ページ)
- 専任条項の留意点(103ページ)
- 直接交渉の制限に関する条項の留意点(104ページ)
- テール条項の留意点(104ページ〜)
4の「各工程の具体的な行動指針」は、試験科目の「M&A実務」とほぼ同じ順番で並んでいます。 つまり、倫理科目の勉強がそのまま実務科目の勉強になります。2科目に同時に効く唯一の範囲です。
7・8・9の3条項は、資料3の「倫理・行動規範」にも項目として明示されています。 数字(期間の目安)が出てくる数少ない箇所なので、出題しやすい論点です。
なぜ法規制がないことが、繰り返し書かれているのか
ガイドラインは、M&A専門業者の立ち位置をこう説明しています。
士業等専門家については法令において資格要件、業務内容、善管注意義務や刑罰等が明確にされている(中略)ものの、 M&A専門業者については、許可制・免許制等は採用されておらず、業界全体における一般的な法規制も存在していない (例えば、不動産取引においては、宅地建物取引業法の規制が存在するが、M&A専門業者についてこのような法規制は存在していない。)。
そのうえで、それでも義務は生じるとします。
しかし、M&A専門業者は、依頼者との契約に基づき、善良な管理者の注意義務(善管注意義務)や 依頼者の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を図ってはならない義務(忠実義務)を負う。
加えて、情報の非対称性(M&Aの知識・相手先情報が業者側に偏在し、依頼者が業務の妥当性を評価できない)と、 仲介業務における構造的な利益相反のリスクを理由に、 「契約上の義務に限られない職業倫理の遵守が求められる」と結んでいます。
この論理の流れ——法規制がない → だから契約と職業倫理で支える → だから可視化の仕組みが要る——が、 資格試験そのものの存在理由です。
試験ではどう問われるか
資料3の「倫理・行動規範」には51項目が並び、その多くがガイドライン第2章の節名と対応しています。 配点は25%程度(60問なら15問程度)で、法務(17〜18%)より重い科目です。
さらにこの科目にだけ、禁忌肢の設定が検討されています。 複数の設問に禁忌肢を置き、一定数を誤答すると総得点にかかわらず不合格とする設計が想定されています。
読み方として現実的なのは、次の順です。
- 第2章II 5(利益相反)……「してはならない行為」が箇条書きで列挙されている。禁忌肢の素材になりやすい
- 第2章II 7・8・9(専任・直接交渉・テール)……期間や範囲の目安という、数字で問える論点
- 第2章II 4(各工程の行動指針)……実務科目と共通
- 第2章I(基本姿勢)……短い。3項目だけ
なお、ガイドラインにはQ&Aも別途公表されており、こちらも出典として挙げられています。
この記事について(出典と免責)
本記事は、中小企業庁が公表した資料をもとに、株式会社プラチナパートナーズが作成したものです。 本試験の実施主体・運営事業者が作成・監修・承認したものではありません。
試験の名称・科目構成・出題数・出題範囲・合格基準・実施時期等は、2026年9月時点で公表されている 検討会資料および企画競争募集要領に「想定」「現状案」として示された内容です。 試験名は資料上「中小M&A資格試験(仮称)」と表記されています。実際の試験と異なる可能性がありますので、 受験にあたっては必ず公式の試験案内をご確認ください。
本記事の法務・税務・会計に関する記述は一般的な制度の説明です。 個別の案件における判断は、必ず弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。
出典:「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(中小企業庁・第4回 中小M&A市場の改革に向けた検討会 資料2、2026年3月17日)/ 同 資料3「試験科目詳細」/ 「中小M&A資格試験実施事業」企画競争募集要領(中小企業庁、2026年3月27日)/ 中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁、2024年8月)/ 中小M&A専門人材(個人)向け 使命・倫理行動規範・知識スキルマップ をもとに当社が作成。
よくあるご質問
Book
この試験の勉強に使えるもの:試験範囲マップ|251項目と当社コラムの対応表で、どの項目にどの記事が対応しているか(と、当社が書けていない項目)を一覧できます。
当社取締役副社長 神垣宏康が執筆した問題集です。中小M&Aガイドライン第3版・知識スキルマップ・検討会資料「試験科目詳細」といった公表資料だけから全300問を作成し、全問に出典を明記しています。
中小M&A資格試験 合格テキスト|一次資料で体系的に学ぶ、4科目の要点
同じシリーズの基本書です(2026年10月3日刊行)。序章で制度創設の経緯・4科目と配点・合格基準・禁忌肢・CBTでの実施形式・学習プランを示し、第1章 M&A実務/第2章 中小M&A市場動向・中小企業政策/第3章 財務・税務/第4章 法務/第5章 倫理・行動規範の順に解説しています。付録は用語集・重要数値一覧・スキーム比較表・出題範囲対応表・学習記録シート。数値・期間・条文には出典を併記し、制度の数値は2026年10月1日時点です。
問題集で問われ方を確かめ、間違えた問から本書の該当節に戻る形を想定しています。付録の出題範囲対応表が、2冊の往復の索引になります。
本書は試験の実施主体・運営事業者が作成・監修したものではありません。制度の内容は2026年9月時点の公表資料に基づく「想定」「現状案」です。受験にあたっては公式の試験案内をご確認ください。