廃業という選択は、経営者にとって最も重い決断のひとつです。そして、決めた後に最も心に重くのしかかるのが、従業員のことではないでしょうか。

本稿は、廃業を勧めるものでも、思いとどまらせるためのものでもありません。廃業を選ぶ場合に、従業員に対して何ができるのか——伝える時期、法令上守るべき手続き、再就職の支援、退職金の手当て——を、実務の順に整理します。あわせて、決める前に一度確認しておく価値のある選択肢にも触れます。判断はご本人のものですので、材料としてお使いください。

決める前に、一度だけ確認しておきたいこと

廃業の準備に入る前に、次の点を確認されることをおすすめします。既に検討済みであれば、次節へ進んでください。

事業単位で引き受け手がいないか

会社全体としては採算が合わなくても、特定の事業、取引先、技術、許認可、人員に価値を見いだす相手がいることがあります。株式譲渡ではなく事業譲渡という形であれば、負債を引き継がずに一部を引き渡すことも可能です。この場合、その事業に従事する従業員の雇用が引き継がれる可能性があります。

赤字でも譲渡できる場合がある

「赤字だから売れない」と考えて検討を止める方は少なくありませんが、買い手が評価するのは直近の損益だけではありません。顧客基盤、有資格者、許認可、立地、設備、取引実績。これらが買い手の事業と噛み合えば、成立することがあります。「赤字企業でも売却できる?」で扱っています。

廃業のコストと比較する

廃業にも費用がかかります。設備の撤去、原状回復、在庫の処分、登記や清算の手続き、そして従業員への退職金。これらを積み上げると、想定より大きな支出になることがあります。譲渡が成立すれば、これらの負担が生じないうえ、雇用も継続します。費用の比較は「廃業とM&Aはどちらを選ぶべきか」で整理しています。

そのうえで廃業を選ばれるのであれば、以下はその実務です。

いつ、誰に、どう伝えるか

廃業の伝達は、時期と順序の設計が結果を左右します。

早すぎても遅すぎても問題が生じる

早く伝えれば、従業員は再就職を探す時間を得られます。一方で、業務が回らなくなり、取引先への納品が滞り、結果として最後の収入と信用を失うこともあります。遅く伝えれば、業務は最後まで回りますが、従業員は準備の時間を奪われます

実務では、廃業予定日の3〜6か月前を目安に伝える会社が多く見られます。法令上の解雇予告は30日前とされていますが、これは最低限の期間であり、再就職の準備としては十分ではありません。

伝える順序

  1. 幹部・役員——先に伝え、その後の段取りを一緒に担ってもらう。
  2. 従業員全員——一斉に、経営者自身の言葉で。個別に伝えると、必ず順序をめぐる不満が生じます。
  3. 個別面談——全体への説明の直後から、一人ずつ。
  4. 取引先——従業員より先に伝わると、社内の信頼を失います。

何を伝えるか

経緯と理由、予定の時期、退職金や未払いの精算、そして再就職の支援について。「申し訳ない」という気持ちより先に、条件を具体的に示してください。従業員が知りたいのは、いつまで給与が出て、いくら受け取れて、次をどう探せばよいかです。

法令上、守るべき手続き

廃業に伴う従業員の退職は、多くの場合、会社都合の退職として扱われます。次の手続きを確認してください。

  • 解雇予告——労働基準法上、少なくとも30日前の予告、または予告に代えて平均賃金の30日分以上の解雇予告手当の支払いが求められます。
  • 賃金の支払い——未払いの賃金、残業代、未消化分の年次有給休暇の取り扱い。廃業時にまとめて精算が必要になります。
  • 社会保険・雇用保険の手続き——資格喪失の届出、離職票の交付。離職票の離職理由は、失業給付の条件に直結します。会社都合であることを正しく記載してください。
  • 労働者への説明——一定規模以上の人員整理では、公的機関への届出が必要になる場合があります。

年次有給休暇への配慮

再就職活動のため、残っている有給休暇を消化したいという希望は当然生じます。業務の都合と調整しながら、できる限り取得できる形を設計することが、実務的な配慮になります。

解雇予告、賃金の精算、社会保険の手続き、人員整理に関する届出の要否は、会社の規模と個別の状況により異なります。実行にあたっては、必ず社会保険労務士・弁護士等の専門家にご確認ください。

退職金と、その資金

従業員への責任として最も具体的な形を取るのが、退職金です。

支給義務の確認

就業規則や退職金規程に定めがある場合、その支給は労働条件の一部として扱われます。「会社を畳むから払えない」では済まないことを、まず確認してください。規程がない場合でも、慣行として支給してきた実績があれば、同様に扱われる可能性があります。

資金の手当て

廃業を決めた時点で、資金は限られていることが多いものです。次のような原資を確認してください。

  • 中小企業退職金共済など、社外に積み立てている制度からの給付
  • 会社を契約者とする保険の解約返戻金
  • 設備・在庫・不動産の売却代金
  • 売掛金の回収

とくに社外積立の制度を利用している場合、会社の資金繰りとは別に従業員へ支払われる仕組みになっていることがあります。制度の内容を確認してください。

支払えない場合

どうしても支払いが困難な場合、分割での支払いを提案する、あるいは法的整理の手続きの中で対応するといった方法が検討されます。この判断は必ず弁護士に相談してください。従業員への未払い賃金は、法的整理において一定の保護が図られる仕組みがあります。曖昧なまま先延ばしにすることが、最も避けるべき対応です。

再就職の支援として、実際にできること

金銭以外の面で、経営者にしかできない支援があります。これは、従業員にとって実質的な価値を持ちます。

取引先・同業への紹介

最も効果が大きいのがこれです。長年の取引先や同業の経営者に、人柄と仕事ぶりを知っている立場から直接推薦する。求人票では伝わらない情報を伝えられるのは、経営者だけです。人手不足が続く業界であれば、まとまった人数の受け入れに応じてもらえることもあります。

公的機関との連携

公共職業安定所には、事業所の廃止に伴う離職者への支援の枠組みがあります。会社側から相談することで、求人の紹介や説明会の実施など、まとまった対応を受けられる場合があります。早めに相談してください。

推薦状・在職証明

個別に、業務内容と実績を記した書面を用意する。転職活動で実際に役立ちます。作成の手間はかかりますが、最後にできる具体的な支援です。

活動の時間を認める

勤務時間中の面接や、有給休暇の柔軟な取得を認める。業務との調整は必要ですが、「探す時間がない」という状態を作らないことが重要です。

有資格者・技能者への配慮

特定の資格や技能を持つ方は、同業他社にとって価値があります。個別に声をかけ、複数の選択肢を用意できるよう動いてください。

廃業の実務と、その後

従業員への対応と並行して進む手続きを、概略として整理しておきます。

主な手続きの流れ

  1. 方針の決定と専門家への相談——税理士・弁護士・社会保険労務士。
  2. 取引先への通知と債権債務の整理——売掛金の回収、買掛金の支払い。
  3. 従業員への説明と退職の手続き
  4. 資産の処分——設備、在庫、不動産、車両。原状回復の要否も確認。
  5. 許認可の廃止届、各種の届出
  6. 解散・清算の登記と、清算結了までの手続き
  7. 税務申告——解散時と清算結了時。

この過程には、通常でも半年から1年程度を要します。資金が尽きてから始めると、選べる方法が限られますので、余力のあるうちに着手することが重要です。

経営者個人への影響

個人保証がある場合、会社の債務が残れば個人の責任が問われます。経営者保証に関しては、一定の要件のもとで保証債務の整理を図る枠組みがあります。廃業を検討する段階で、金融機関との対話と専門家への相談を早めに行ってください

解散・清算の手続き、債務整理、経営者保証の取り扱い、税務申告の内容は個別性が高く、選択する手続きによって結論が変わります。必ず弁護士・税理士等の専門家にご相談ください。

まとめ|条件を先に示すことが、最大の誠意

廃業を選んだ場合の従業員への責任は、気持ちではなく段取りで果たされます。早めに伝え、条件を具体的に示し、退職金の資金を確保し、再就職を実際に手助けする。この四つを丁寧に進めることが、長年働いてくれた方々への、最も現実的な報い方だと考えます。

なお、廃業の準備に入る前に、事業の一部でも引き受け手がないかを確認する余地はあります。レコフデータの集計では2025年の国内M&A件数は5,000件を超え、2年連続で過去最多となりました。小規模な事業の譲渡も、以前より成立しやすくなっています。判断される前に一度、ご相談いただければ幸いです。

よくあるご質問

A.法令上の解雇予告は少なくとも30日前とされていますが、これは最低限の期間です。再就職の準備を考えると、3〜6か月前に伝える会社が多く見られます。早く伝えるほど従業員には有利ですが、業務が回らなくなるリスクもありますので、幹部に先に相談し、業務の継続に必要な体制を確保したうえで全員に伝える順序をおすすめします。
A.まず、中小企業退職金共済など社外に積み立てている制度がないかを確認してください。制度によっては、会社の資金繰りとは別に従業員へ支払われる仕組みになっています。そのうえで不足する場合は、資産の売却や分割払いの提案、法的整理の手続きの中での対応が検討されます。従業員への未払い賃金には法的整理において一定の保護の仕組みがありますので、早い段階で弁護士にご相談ください。
A.事業の内容によっては可能性があります。会社全体の譲渡が難しくても、特定の事業・取引先・許認可・有資格者に価値を見いだす相手がいることがあり、その場合は事業譲渡という形で一部を引き渡し、従事する従業員の雇用が引き継がれることもあります。ただし、資産の処分や従業員の退職が進んだ後では選択肢が狭まりますので、判断の早い段階でご相談いただくことをおすすめします。

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廃業を決める前に、一度だけご相談ください。

事業の一部だけの譲渡や、雇用を引き継ぐ形のご相談も承ります。相談料・着手金・月額報酬は0円です。基本合意時の中間金と成功報酬については料金体系をご覧ください。
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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら