複数の法人を抱えるグループでは、グループ通算制度を採用している例があります。グループ内の各法人の所得と欠損を通算して法人税を計算する仕組みで、かつての連結納税制度に代わるものとして導入されました。この制度を採用しているグループが会社を買収する場合、買収した会社は原則としてグループに加入することになり、加入の時点で特有の処理が生じます。本稿では、M&Aの観点から押さえておきたい論点を整理します。

グループ通算制度の基本

グループ通算制度は、親法人とその完全支配関係にある子法人を一つのグループとして扱い、各法人の所得と欠損を通算したうえで法人税額を計算する仕組みです。制度の下では各法人がそれぞれ申告を行いつつ、グループ全体で損益を通算するという形をとります。

採用するかどうかは選択制ですが、いったん適用を受けると、完全支配関係にある子法人は原則としてすべてグループに含まれます。つまり、新たに100%子会社となる会社を買収すれば、その会社も原則としてグループに加入することになります。

買い手企業がこの制度を採用しているかどうかで、買収後の税務処理は大きく変わります。案件の初期段階で、買い手側の適用状況を確認しておくことが重要です。

買収した会社が加入するときの論点

グループに加入する際には、いくつか特有の処理が生じます。代表的なのが、加入する法人の資産を時価で評価し直す処理(時価評価)と、加入前に生じていた欠損金の取扱いです。

制度の趣旨は、グループ外から欠損金や含み損を持ち込んで、グループ内の他の法人の所得と通算することを無制限に認めない、という点にあります。そのため、加入する法人が一定の要件を満たさない場合には、資産の時価評価を行い、また加入前の欠損金の持込みが制限される仕組みが置かれています。

一方、一定の要件を満たす場合には、時価評価を要しない、あるいは欠損金を一定の範囲で持ち込めるといった扱いもあります。要件は複雑ですので、買収の検討段階で税理士に確認しておくことが不可欠です。繰越欠損金そのものの制限については「買収した会社の繰越欠損金」もご参照ください。

本稿は一般的な税制の仕組みのご紹介であり、特定の取引に関する税務アドバイスではありません。実際の適用可否や税額は、会社の状況や取引の内容によって異なります。必ず税理士等の専門家にご確認ください。

売り手側|グループから離脱する場合

逆に、グループ通算制度を採用しているグループが、子会社を第三者に売却する場合を考えます。売却によって完全支配関係がなくなれば、その子会社はグループから離脱します。

離脱にあたっても、一定の場合に資産の時価評価が求められることがあり、また離脱する法人が持っていた欠損金の扱いにもルールがあります。売り手であるグループ側でも、離脱に伴って想定していなかった税負担が生じないか、事前の確認が必要です。

実務上、見落とされやすいのがタイミングです。離脱の効力が生じる日と事業年度の区切りとの関係で、申告の手続きが増えることがあります。クロージング日を決める際には、税務上の区切りも意識してスケジュールを組むほうが安全です。決算期との関係は「決算期の途中で売却するとどうなるか」でも触れています。

買収スキームの選択にも影響する

グループ通算制度の適用の有無は、買収の手法(スキーム)の選択にも関わります。たとえば、株式取得によって100%子会社にするのか、一部の株式を売り手に残すのか、あるいは事業譲渡で事業だけを取得するのかによって、グループへの加入の有無が変わります。

  • 100%取得:原則としてグループに加入。加入時の処理を検討する必要がある
  • 持分の一部を残す:完全支配関係に至らなければ加入しない。ただし少数株主が残ることによる別の論点が生じる
  • 事業譲渡:法人自体を取得しないため、加入の問題は生じない。ただし資産の移転に伴う消費税(標準税率10%)などの論点がある

スキームごとの税務の違いは「株式譲渡と事業譲渡の税金の違い」で整理しています。どの手法が適切かは、税務だけでなく、許認可の承継、契約の引継ぎ、簿外債務のリスクなど複数の観点から判断されます。

なお、2026年4月以後に開始する事業年度からは防衛特別法人税が課されることとされており、グループ全体の税負担の見通しを立てる際には、この点も織り込んでおく必要があります。

検討段階で確認しておきたいこと

買い手・売り手の双方で、次の点を確認しておくと進行がスムーズです。

  • 買い手がグループ通算制度を採用しているか。採用しているなら加入の前提を確認する
  • 対象会社に含み損益のある資産や繰越欠損金があるか
  • クロージング日と事業年度の関係。加入・離脱の効力発生日をどこに置くか
  • 加入後の申告体制。対象会社の経理がグループの申告スケジュールに対応できるか

最後の点は税務そのものではありませんが、統合後に効いてきます。中小企業では経理が少人数で回っていることが多く、グループの申告体制に合わせるには相応の負担が生じます。PMIの計画に、経理・税務の体制整備を組み込んでおくことをおすすめします。管理体制の整備については「PMIにおける資金管理」も参考になります。

加えて、対象会社の決算・申告の品質そのものも確認しておきたいところです。グループに加入すれば、対象会社の数字はグループ全体の税額計算に影響します。これまで簡便に処理されてきた項目が、加入後は厳密な処理を求められることもありますので、デューデリジェンスの段階で経理処理の水準を把握しておくと、統合後の負担を見積もりやすくなります。

制度の適用関係は専門性が高く、一般論だけで判断できる領域ではありません。案件ごとに税理士の確認を経ることを前提としてください。

まとめ|買い手の税務体制まで含めて検討する

要点を整理します。

  • グループ通算制度を採用するグループが100%子会社を買収すると、原則としてその会社はグループに加入する
  • 加入時には、資産の時価評価や加入前の欠損金の持込み制限といった特有の処理が生じ得る
  • グループから子会社を売却して離脱させる場合にも、時価評価や欠損金の扱いに固有のルールがある
  • スキームの選択(100%取得か、一部保有か、事業譲渡か)によって、加入の有無が変わる
  • クロージング日と事業年度の関係、統合後の申告体制まで含めて検討する

当社プラチナパートナーズは、買い手企業様の案件検討をご支援しています。相談料・着手金・月額報酬は0円です。グループ構成が複雑な場合ほど、早い段階で税理士と論点を洗い出しておくことが、後の手戻りを防ぎます。お気軽にご相談ください。

よくあるご質問

A.買い手がこの制度を採用しており、買収によって完全支配関係が生じる場合は、原則として加入することになります。一部の株式を売り手に残すなど完全支配関係に至らない場合は加入しませんが、その場合は少数株主が残ることによる別の論点が生じます。
A.一定の要件を満たす場合には時価評価を要しない扱いもあり、常に必要とは限りません。要件は複雑ですので、買収の検討段階で税理士にご確認ください。
A.一定の場合に資産の時価評価が求められることがあり、欠損金の扱いにもルールがあります。またクロージング日と事業年度の関係によって申告の手続きが増えることもありますので、スケジュールの設計段階から税理士に相談されることをおすすめします。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら