「相談したら、すぐにどこかへ話が持ち込まれるのではないか」。初回のご相談前に、そう心配される方もいらっしゃいます。実際には、相談から買い手への打診が始まるまでには、いくつもの工程があります。その間、売り手は何度も立ち止まって判断できます。この記事では、その道のりを順に追います。
初回相談|まず状況を伺う
最初の面談で行うのは、会社と社長の状況を伺うことです。事業の内容、業績の推移、株式の持ち方、後継者の有無、そして何より「なぜ今考えているのか」。この理由の部分が、その後の進め方をほぼ決めます。
この段階では、資料をお持ちいただく必要はありません。数字の話は概算で構いませんし、「売ると決めているわけではない」という状態でもまったく問題ありません。実際、初回のご相談時点では方針が固まっていない方のほうが多く、選択肢を整理するところから始まります。
そして重要なのは、この時点では会社の情報が外に出ないということです。仲介会社との間で秘密保持の取り決めを交わしたうえで伺いますし、打診は後述する工程をすべて経てからでなければ始まりません。当社では相談料・着手金・月額報酬をいただいておりませんので、方針が決まる前でも安心してご相談いただけます。
資料の確認と価値の試算
方向性が見えてきたら、決算書や申告書などの資料をお預かりし、価値の試算と論点の洗い出しを行います。ここで行うのは主に三つです。
第一に、収益力の実態を把握することです。役員報酬、オーナー個人にひもづく保険や賃料、一時的な損益などを調整し、譲渡後に残る収益力を見ます。第二に、譲渡価格の水準を試算します。一般的な考え方は「企業価値と株式価値はどう違うか」で解説していますが、実際にいくらになるかは買い手によって変わるため、この段階ではレンジでお示しします。
第三に、論点の洗い出しです。株式の分散、名義株、簿外の債務、未払い残業代の懸念、許認可の承継、主要契約のチェンジオブコントロール条項。後になって出てくると条件に響く事項を、先に見つけておきます。準備すべき資料の全体像は「仲介契約を結ぶ前に揃える資料」にまとめています。
仲介契約(アドバイザリー契約)の締結
進めることが決まったら、仲介会社と契約を結びます。ここで初めて、正式に売却活動の支援を委託する関係になります。
契約の際に確認していただきたいのは、専任か非専任か、契約期間はどれくらいか、テール条項(契約終了後に成約した場合の手数料の定め)がどうなっているか、そして手数料の体系です。読み方は「M&A仲介契約(アドバイザリー契約)の読み方」と「専任契約とテール条項」で詳しく扱っています。
当社の手数料体系についても、ここで改めてご説明します。相談料・着手金・月額報酬はいただかず、基本合意の時点で成功報酬額の10%を中間金としてお預かりし、成約時の成功報酬から全額を差し引きます(基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません)。ただし、基本合意後に不成立となった場合、中間金の返金はいたしません。成功報酬は移動総資産レーマン方式(基準額は株式価値と負債総額の合計)で計算し、最低額は2,000万円(税別)です。詳細は料金体系のページに掲載しています。
案件資料の作成|ノンネームと企業概要書
契約後、買い手候補に見せる資料を作ります。会社名を伏せた1枚のノンネームシートと、秘密保持契約を結んだ相手にだけ渡す企業概要書(IM)の二つです。
ノンネームシートは、特定されない範囲で関心の有無を判断してもらうための資料です。どこまで具体的に書くかは、秘密保持と関心喚起のバランスで決めます(「ノンネームシートの粒度」)。企業概要書は、事業の内容、業績、組織、取引の構成などをまとめた詳細資料で、買い手が検討の土台にするものです。
どちらも仲介会社が原案を作成しますが、外部に出す前に必ず売り手がご確認ください。事実と違う記載があれば後の表明保証の問題になりますし、書きすぎていれば不必要な情報が出ていきます。確認の観点は「企業概要書(IM)の内容確認」にまとめました。
この作成には、相応の時間がかかります。資料の整い具合や、論点の多さによって差がありますので、期間は案件によって異なるとお考えください。
打診先の選定と、打診の開始
資料ができたら、どこに声をかけるかを決めます。条件に合いそうな先を広く洗い出し(ロングリスト)、そこから実際に打診する先を絞り込みます(ショートリスト)。この進め方は「打診先リストの作り方」をご覧ください。
リストは打診を始める前に必ず売り手にご確認いただきます。ここで、知られたくない相手を外していただくことが重要です。挙げていただきたい先の類型は「打診を避けたい相手の伝え方」で整理しています。
ご了承をいただいた先にノンネームシートを提示し、関心を示した相手と秘密保持契約を結んで企業概要書をお渡しする。ここまで来て、ようやく「案件化」が完了し、実質的な検討が始まります。初回相談から数えると、いくつもの判断を経ていることがおわかりいただけると思います。
まとめ|相談は、決める前に始められる
初回相談から案件化までの流れは、状況のヒアリング、資料の確認と価値の試算、仲介契約の締結、ノンネームと企業概要書の作成、打診先の選定と打診開始、という順序で進みます。このうち買い手に情報が出るのは最後の工程だけです。
途中には、いくつもの判断のポイントがあります。試算の結果を見て見送る、論点を整理してから再開する、打診先を絞る。どの段階でも立ち止まれますし、進めないという選択もできます。
だからこそ、決めてから相談する必要はありません。当社では相談料・着手金・月額報酬をいただいておらず、方針が固まっていない段階のご相談も数多くお受けしています。M&A全体の流れは「M&Aの流れを7ステップで解説」やサービスのご案内もあわせてご覧ください。