譲り受けようとする会社に労働組合がある場合、統合の進め方には固有の配慮が必要になります。組合の存在自体は何ら問題ではありませんが、協議の順序を誤ると、統合の施策が個別に止まることになります。一方で、必要な協議を経て進めた施策は、現場への浸透が早いという面もあります。本稿では、デューデリジェンスでの確認事項から、開示の順序、労働協約の扱い、統合施策を進める際の協議までを整理します。なお、労使関係の具体的な取扱いには法令上の要請が多く含まれるため、実務は必ず専門家と進めてください。

デューデリジェンスで確認すること

労働組合がある場合、労務デューデリジェンスの確認範囲が広がります。主な項目を挙げます。

  • 労働協約の内容と有効期間——就業規則より優先される事項がないか
  • 協議・同意を要する事項の範囲——人事異動、組織変更、労働条件の変更について何が定められているか
  • 労使協議の実態——定例の協議があるか、議事録が残っているか
  • 過去の紛争の有無——団体交渉の経緯、労働委員会への申立てなど
  • 組合の組織状況——企業内組合か、上部団体に加盟しているか
  • チェックオフや組合事務所の便宜供与——慣行として続いている事項

特に重要なのが二つ目です。労働協約に「重要な組織変更については事前に協議する」といった条項がある場合、統合の施策がその対象に含まれる可能性があります。買収後に協議が必要となる事項を、買収前に把握しておくことが、統合計画の前提になります。

また、書面に残っていない労使慣行にも注意が必要です。長年続いてきた運用が、実質的に労働条件の一部となっている場合があります。

労働協約の解釈、承継の可否、協議義務の範囲などは、契約内容や譲渡の方式によって取扱いが異なります。本稿は一般的な留意点の整理であり、個別の判断は必ず弁護士・社会保険労務士等の専門家にご確認ください。

譲渡の方式によって扱いが変わる

株式譲渡の場合、会社そのものは変わらないため、労働契約も労働協約も原則としてそのまま存続します。買い手が変わっても、労使関係の枠組みは継続します。

一方、事業譲渡や会社分割の場合は取扱いが異なります。労働契約の承継について個別の手続きが必要になる場面があり、労働者や労働組合への通知・協議に関する法令上の要請が生じることもあります。手続きを欠いた場合、後に効力を争われる可能性があります。

したがって、スキームの検討段階で、労使関係への影響を論点として挙げておく必要があります。税務や法務の観点だけでスキームを決めると、後の手続きが煩雑になることがあります。スキームの比較は「買収スキームの比較」もご参照ください。

いずれの方式であっても、必要な手続きの内容と時期は個別の事情によって異なります。専門家の関与のもとで進めてください。

開示と、最初の接触

譲渡を従業員に開示する際、組合への説明をどう組み込むかが実務上の論点になります。一般には、全従業員への説明と同じ日、または直後に組合に対する説明の場を設ける形が採られます。

組合が後から知る形になると、そのこと自体が労使関係の出発点として問題視されることがあります。逆に、組合にだけ事前に伝えることも、秘密保持の観点から慎重な判断が必要です。時期と順序は、売り手・買い手・専門家で事前に整理しておいてください。

最初の説明で伝えるべき内容は、一般の従業員向けと大きくは変わりません。何が起きたか、当面何が変わらないか、これから何をどう決めるか。加えて、労働協約と既存の労使慣行をどう扱う考えかについて、現時点の方針を述べることになります。

この場で避けたいのは、確定していないことを確定したかのように述べることです。後に方針が変わった場合、信頼の毀損が大きくなります。検討中のことは検討中と述べ、決定の時期を示すほうが穏当です。

統合施策を進める際の協議

統合の過程では、労働条件や組織に関わる施策が出てきます。これらのうち、協議や同意を要する事項がどれかを整理しておく必要があります。

施策の例実務上の留意点
就業規則の改定法令上の手続きに加え、協約との関係を確認する
賃金・賞与制度の変更不利益変更に該当しないか。協議の要否を確認する
組織変更・配置転換協約に事前協議の定めがないか確認する
拠点の統廃合勤務地の変更を伴うため、協議が必要となる場面が多い
勤務時間・シフトの変更労使協定の有無と内容を確認する

実務で問題になりやすいのは、協議が必要と気づかずに進めてしまうことです。統合計画を作る段階で、各タスクについて協議の要否を欄として設けておくと、見落としを防げます。

協議には時間がかかります。統合計画の日程を組むときは、協議に要する期間を最初から織り込んでください。協議を省略して進めた施策は、後に差し戻される可能性があり、結果として時間の損失が大きくなります。

協議を機能させるために

協議を形式的な手続きと捉えると、統合は難しくなります。実務的には、協議の場を現場の実情を知る機会として使うほうが、結果的に統合が円滑に進みます。

有効なのは、施策の内容が固まる前の段階で情報を共有することです。決定済みの案を提示して同意を求める形だと、議論は賛否の対立になります。検討段階で論点を共有すれば、実務上の支障が早く分かり、修正した案を出せます。

また、協議の記録を残すことが重要です。何を説明し、どんな意見が出て、どう対応したか。記録があれば、後に認識の食い違いが生じたときに確認できます。労使双方にとって、記録は防御にもなります。

買い手側の姿勢としては、組合を統合の障害と捉えないことです。組合は現場の声が集約される経路でもあり、そこから得られる情報は統合の設計に役立ちます。従業員が個別には言いにくいことが、組合を通じて上がってくることもあります。

売り手として準備しておくこと

組合のある会社を譲渡する場合、売り手の側でも準備できることがあります。

第一に、労働協約と労使協定の整理です。現在有効な協約の内容、有効期間、過去の変更の経緯を文書として整えておきます。デューデリジェンスで必ず求められる資料であり、整っていないと確認に時間がかかります。

第二に、書面化されていない慣行の洗い出しです。長年続いてきた運用のうち、書面に根拠がないものを把握しておきます。買い手が知らずに変更して問題になることを防げます。

第三に、組合との関係の実情を、適切な範囲で買い手に伝えることです。協議の頻度、これまでの主な論点、対話の進め方。これらを共有しておくと、買い手が最初の接触で誤った対応をする事態を避けられます。

なお、譲渡の検討自体をいつ組合に伝えるかは、秘密保持との兼ね合いで慎重な判断が必要です。当社が仲介する案件では、この点を含めた開示の設計を、売り手・買い手の双方と整理したうえで進めています。

よくあるご質問

A.組合の存在自体が成立を妨げるものではありません。ただし、買い手にとっては統合の進め方に協議の期間を織り込む必要があり、その点を事前に把握できているかが重要です。労働協約や労使慣行が整理された状態で開示されていれば、買い手も検討しやすくなります。逆に、実態が不明確なまま進むと、デューデリジェンスの段階で論点が膨らみます。
A.株式譲渡では会社そのものが存続するため、労働協約も原則として存続します。ただし、協約の内容や有効期間、その後の変更手続きについては個別の検討が必要です。また、事業譲渡や会社分割の場合は取扱いが異なります。具体的な判断は弁護士にご確認ください。
A.労働協約や労使協定の内容、法令上の要請、施策の性質によって異なります。就業規則の改定や労働条件の変更、拠点の統廃合など、従業員の労働条件に影響する施策については、事前に要否を確認してください。統合計画の各タスクに協議の要否を記入する欄を設けておくと、見落としを防げます。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら