本稿は、経営者の方ではなくM&A仲介の実務者、およびこれから仲介会社で働こうとしている方に向けた実務教材です。中小企業の現場に行くと、設備・車両・複合機・システムのかなりの部分がリースや割賦で入っています。ところが、貸借対照表を見てもそれが見えないことがあり、資料づくりの段階で抜けたまま進んで、デューデリジェンス(DD)で一気に出てくる。これは新人が最も踏みやすい抜けの一つです。本稿はリース契約そのものの読み方に絞ります。有利子負債として何を算入するかという価格側の議論は「ネットデットの算定実務」で扱っているので、ここでは契約書のどこを見て、何を一覧に落とすかを型にします。

まず契約書を集める|どこに眠っているか

リース契約は、経理に全部まとまっていることがまずありません。契約は現場の判断で結ばれ、書類は結んだ人の手元に残っているからです。次の場所を順に当たります。

  • 経理の支払明細:毎月の定額の引落としを一年分並べると、把握していない契約が見つかる
  • 総勘定元帳の「賃借料」「リース料」「支払手数料」:勘定科目がばらついていることが多い
  • 固定資産台帳:所有権移転ファイナンス・リースや割賦は、資産計上されている場合がある
  • 保険証券:リース物件には保険が付いていることがあり、そこから契約が判明する
  • 現場:機械や車両に貸主のプレートが貼られている。現地確認は有効(「現地写真・図面の使い方」)

集めるときは、オーナーの負担を減らす順番で依頼します。いきなり「全部出してください」ではなく、支払明細から当たりをつけ、必要な契約を名指しで依頼するほうが早く集まります(「資料依頼の出し方」)。

契約書のどこを見るか|読む順番を固定する

リース契約書は分量があり、初めて見ると全部読まなければいけない気になります。実務では、見る箇所を固定してしまうのが早い。次の順で拾います。

見る箇所何が分かるか見落とすとどうなるか
契約の名称と種別リースか、割賦か、レンタルか。ファイナンスかオペレーティングか会計処理も残債の意味も変わる
物件明細(別紙)対象物件、台数、設置場所現物と契約の対応が取れなくなる
リース期間・開始日・満了日残存期間。満了後の扱い終了済み契約を残債として数えてしまう
月額料と支払回数・残回数未経過分の総額(未経過リース料)負担の総額が出ない
中途解約条項・規定損害金途中でやめられるか、やめるといくらかかるか「解約すればよい」という誤った前提で交渉してしまう
所有権の帰属・満了時の扱い再リース、買取、返還のどれか譲渡後に物件が使えなくなる可能性を見落とす
連帯保証人オーナー個人が保証しているか経営者保証の解除の論点から漏れる
譲渡・支配権変更に関する条項貸主の承諾が要るか、通知で足りるかクロージング直前に承諾取得が発生し工程がずれる
物件の保守・保険の負担ランニングコストの実態譲渡後のコストが想定と違ってくる

とくに中途解約条項は、新人が飛ばしがちで、かつ交渉で効いてきます。ファイナンス・リースは原則として中途解約ができず、解約する場合は残りのリース料に相当する規定損害金の支払いを求められるのが一般的です。「不要な設備は解約すればよい」という説明を安易にすると、後で事実と違ったことになります。

支配権の変更に関する条項の扱いは、許認可や取引基本契約と同じ考え方で進めます。順番と伝え方は「許認可とチェンジオブコントロールの事前確認」を参照してください。

オンバランスとオフバランス|見えていない負担を見えるようにする

リースが資料から抜ける最大の理由は、貸借対照表に載っていない契約があるからです。会計上の扱いはリースの種類と、その会社が採用している処理によって変わります。

  • ファイナンス・リース:リース物件を資産として計上し、同額のリース債務を負債に計上するのが原則です。ただし中小企業では、所有権移転外ファイナンス・リースについて賃貸借処理(支払リース料を費用処理)が認められる場合があり、その場合は資産にも負債にも載りません
  • オペレーティング・リース:賃貸借として処理され、貸借対照表には載りません
  • 割賦購入:資産として計上し、未払分を負債に計上するのが一般的です。利息相当額の扱いが契約によって異なります

賃貸借処理をしている場合でも、注記として未経過リース料が開示されていることがあります。決算書の注記を必ず見てください。注記がない場合は、契約書から自分で積み上げるしかありません。

ここで重要なのは、会計処理の適否を仲介者が判定しないことです。どの区分に当たるか、どう処理すべきかは会計の判断であり、具体的な適用は税理士・公認会計士にご確認くださいと明示します。仲介者の仕事は、「載っているもの」と「載っていないもの」を分けて、どちらも同じ一覧に並べることです。

有利子負債に含めるかの判断|論点の切り分け方

価格交渉では「リースは有利子負債に含めるのか」が必ず論点になります。ここで新人がやりがちなのは、自分で結論を出してしまうことです。算入の要否は、買い手と売り手の合意で決まる価格の前提であり、正解が一つある問題ではありません。アドバイザーの役割は、判断材料を揃えて論点として出すことです。

論点整理して示すこと
実質は購入の分割払いか、賃借か所有権移転の有無、中途解約の可否、物件の汎用性
事業の継続に不可欠か不可欠なら、支払いは将来のコストとして損益に織り込まれる性質が強い
類似の資産を他社が自己所有しているか倍率を使う評価では、比較対象との前提を揃える必要がある
残存期間残り数か月と、残り5年では意味が違う
金額の重要性金額が小さければ、論点にせず一覧で開示するだけで足りる場合もある

どの前提で価格を出しているかは、必ず資料に明記します。「リース債務は有利子負債に含めていない(未経過リース料は別表に記載)」と一行書いておけば、買い手が自分の基準で調整できます。ここを書かずに進めると、後で前提が違っていたことが分かり、価格の議論を最初からやり直すことになります。調整の実務は「価格調整の実務」に続きます。

一覧表に落とす|列の決め方と、よくある不備

最後に、資料に載せる形にします。リースは契約数が多くなりやすいので、一覧表にして、本文では要点だけを述べる構成が読みやすくなります。

  • 貸主(IM段階では業種表現に置き換える場合がある)/契約番号
  • 物件:名称、台数、設置拠点
  • 種別:ファイナンス(所有権移転/移転外)/オペレーティング/割賦/レンタル
  • 開始日・満了日・残回数
  • 月額料未経過リース料の総額
  • 会計処理:資産負債に計上済みか、賃貸借処理か
  • 中途解約:可否と、解約時に想定される規定損害金の算定方法
  • 満了時の扱い:再リース/買取/返還
  • 連帯保証人の有無/支配権変更条項の有無

よくある不備を挙げます。いずれも、後から出てくると資料全体の精度を疑われます。

  • 満了済みの契約が一覧に残っている(逆に、再リースに移行した契約が落ちている)
  • オーナー個人名義の車両リースが法人の一覧に混ざっている(「個人資産と法人資産の切り分け」)
  • 割賦とリースが同じ行に混ざり、所有権の所在が分からない
  • 月額料だけ書いて、残回数と未経過総額がない
  • 複数拠点のうち、本社分しか拾えていない

一覧をつくるときの姿勢として、一つだけ確認しておきます。金額の小さい契約を「まとめて省略」しないでください。件数が多いこと自体が、管理の実態を示す情報です。負担を軽く見せるために省く、逆に多く見せるために重複して数える、そのどちらも資料としては同じ誤りです。有利な契約も不利な契約も、同じ列に、同じ精度で並べる。これが一覧表の基本です。

本稿は仲介実務の一般的な型を解説するものであり、個別案件における税務・法務・労務の適用は、税理士・弁護士・社会保険労務士等の専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.書いてください。賃貸借処理をしているファイナンス・リースやオペレーティング・リースは貸借対照表に計上されませんが、将来の支払義務は実在します。買い手側のデューデリジェンスでは契約書を確認するため、ほぼ確実に判明します。決算書の注記に未経過リース料の開示があればそれを使い、なければ契約書から積み上げて一覧にしてください。載っていないものこそ、先に出しておく価値があります。
A.一つの正解がある問題ではなく、価格の前提として売り手と買い手が合意する事項です。所有権移転の有無、中途解約の可否、事業継続への不可欠性、残存期間、金額の重要性といった判断材料を揃え、論点として提示するのが仲介者の役割です。重要なのは、自社の資料がどちらの前提で作られているかを必ず明記することです。
A.契約内容を確認してから判断してください。ファイナンス・リースは原則として中途解約ができず、解約する場合は残りのリース料相当額の規定損害金を求められるのが一般的です。解約したほうがよいケースもありますが、金額を確認せずに助言すると事実と異なることになります。まず貸主に解約時の条件を確認し、その結果を示したうえでオーナーに判断していただきます。
A.条項の内容を読み分けるところから始めます。貸主の事前承諾が必要なのか、通知で足りるのか、何もないのかで段取りが変わります。承諾が必要な場合は、いつ誰から誰に連絡するかを工程表に置き、秘密保持の観点から売り手と相談して順番を決めます。クロージング直前に発覚すると日程が崩れるため、資料作成の段階で全契約を確認しておくことが実務上の要点です。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら