ガイドライン第2章は、たった1ページの「基本姿勢」から始まります。3項目しかありません。

しかし、その後に続く27ページの具体的な規範は、すべてこの3項目から導かれています。 ここを押さえると、個々の規定を暗記しなくても筋が通るようになります。

1 依頼者(顧客)の利益の最大化

最初の項目は、支援機関が置かれている情報の非対称性の指摘から始まります。

依頼者(顧客)である中小企業が、支援機関の専門的な業務や手数料の妥当性等について、 一般的には適切に判断することが困難である現状を踏まえて、 依頼者(顧客)の利益に真に忠実に動くことが求められる点を改めて認識する必要がある。

ここには重要な前提が置かれています。依頼者は、支援の良し悪しを自分では判断できない。 中小M&Aでは、譲り渡す経営者の多くが一生に一度の取引をします。比較対象を持たず、相場も手続きも知りません。

だから「説明した」では足りない、と続きます。

特に、仲介者・FAや士業等専門家は、中小M&Aの手続の各段階で、重要な判断を依頼者(顧客)に求める場合には、 十分に説明して納得を得た上で進める必要がある。

「納得を得た上で」という言葉が、この文書の通奏低音です。後の手数料の説明義務も、 利益相反の開示も、リスク事項の説明も、すべてこの一文の具体化として読めます。

2 それぞれの役割に応じた適切な支援

2つ目は、支援機関の種類ごとに期待される役割が違う、という整理です。

  • M&A専門業者……マッチングやその後の諸手続の進捗管理等、総合的な支援
  • 金融機関……融資を通じて経営状況を詳細に把握しており、豊富なネットワークを持つことから、情報を生かした積極的な働き掛け
  • 商工団体……中小企業の身近な相談相手として、窓口機能を生かし適切な支援機関に紹介
  • 士業等専門家……専門的な知見を生かして手続の遂行等を支援
  • M&Aプラットフォーマー……インターネットを活用したマッチングの場の提供
  • 事業承継・引継ぎ支援センター……公的機関としての支援

試験の「中小M&A市場動向」には、まさに「中小M&A市場におけるプレイヤー及びその役割」という項目があります。 誰が何をする機関なのかを、役割で説明できるようにしておく範囲です。

3 支援機関間の連携|「自ら全てを抱え込むのではなく」

3つ目は連携です。ガイドラインは、円滑に進むケースの共通点として支援機関同士の連携を挙げ、こう結びます。

各支援機関は、自ら全てを抱え込むのではなく、必要に応じ、他の支援機関と積極的に連携することが望まれる。

これは精神論ではありません。合格者像の定義とぴたりと重なります。

財務・税務、法務の基礎的な知識をもって、M&Aプロセスを進める際に検討が必要な論点を見極め、 士業専門家と連携できる水準

試験が測っているのは、税務や法務を自分で結論づける力ではなく、どこからが自分の領域でないかを見分ける力です。 そして「抱え込まない」ことは、独占業務違反(弁護士法第72条・税理士法第52条等)を避けるという意味でもあります。

倫理科目の設問で「最も適切なもの」を選ぶとき、担当者が一人で結論を出している選択肢は、ほぼ誤りです。

3項目から、後の規範がどう導かれるか

基本姿勢と、後に続く具体的な規範の対応を整理すると、こうなります。

基本姿勢具体化された規範の例
依頼者の利益の最大化手数料・業務内容の説明義務/相手方手数料の開示/リスク事項の説明/専任条項でセカンド・オピニオンを許容すべきこと
役割に応じた適切な支援仲介者はバリュエーション・DDの結論を決定しない/提供する業務の範囲を書面で整理して説明する
支援機関間の連携士業等専門家への相談を促す/紛争解決の支援は非弁行為に該当しうる旨を説明する

個々の規定を丸暗記するより、「この規定はどの基本姿勢の具体化か」を考えるほうが、 初見の設問に強くなります。禁忌肢は、3項目のいずれかに正面から反する選択肢として作られるはずだからです。

この記事について(出典と免責)

本記事は、中小企業庁が公表した資料をもとに、株式会社プラチナパートナーズが作成したものです。 本試験の実施主体・運営事業者が作成・監修・承認したものではありません。

試験の名称・科目構成・出題数・出題範囲・合格基準・実施時期等は、2026年9月時点で公表されている 検討会資料および企画競争募集要領に「想定」「現状案」として示された内容です。 試験名は資料上「中小M&A資格試験(仮称)」と表記されています。実際の試験と異なる可能性がありますので、 受験にあたっては必ず公式の試験案内をご確認ください。

本記事の法務・税務・会計に関する記述は一般的な制度の説明です。 個別の案件における判断は、必ず弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。

出典:「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(中小企業庁・第4回 中小M&A市場の改革に向けた検討会 資料2、2026年3月17日)/ 同 資料3「試験科目詳細」/ 「中小M&A資格試験実施事業」企画競争募集要領(中小企業庁、2026年3月27日)/ 中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁、2024年8月)/ 中小M&A専門人材(個人)向け 使命・倫理行動規範・知識スキルマップ をもとに当社が作成。

よくあるご質問

A.中小M&Aガイドライン第2章Iに定められた3項目です。依頼者(顧客)の利益の最大化、それぞれの役割に応じた適切な支援、支援機関間の連携の3つです。
A.ガイドラインは、依頼者である中小企業が支援機関の専門的な業務や手数料の妥当性を適切に判断することが一般的に困難である、という現状を前提に置いているためです。
A.円滑に進むケースでは支援機関同士が連携している例が多いとされているほか、合格者像が「士業専門家と連携できる水準」と定義されており、独占業務違反を避ける意味もあります。

Book

この試験の勉強に使えるもの:試験範囲マップ|251項目と当社コラムの対応表で、どの項目にどの記事が対応しているか(と、当社が書けていない項目)を一覧できます。

中小M&A資格試験 合格問題集|一次資料で解く、全300問

当社取締役副社長 神垣宏康が執筆した問題集です。中小M&Aガイドライン第3版・知識スキルマップ・検討会資料「試験科目詳細」といった公表資料だけから全300問を作成し、全問に出典を明記しています。

本編180問(M&A実務55/市場動向・政策17/財務・税務37/法務32/倫理・行動規範39)+本試験と同じ60問・科目配分の模擬試験2回120問。各問に解説と出典。禁忌肢が想定される問題の明示と、付録に禁忌肢チェックリスト。付録の出題範囲対応表は、資料3の小項目から問番号を引ける形にしてあります。

中小M&A資格試験 合格テキスト|一次資料で体系的に学ぶ、4科目の要点

同じシリーズの基本書です(2026年10月3日刊行)。序章で制度創設の経緯・4科目と配点・合格基準・禁忌肢・CBTでの実施形式・学習プランを示し、第1章 M&A実務/第2章 中小M&A市場動向・中小企業政策/第3章 財務・税務/第4章 法務/第5章 倫理・行動規範の順に解説しています。付録は用語集・重要数値一覧・スキーム比較表・出題範囲対応表・学習記録シート。数値・期間・条文には出典を併記し、制度の数値は2026年10月1日時点です。

問題集で問われ方を確かめ、間違えた問から本書の該当節に戻る形を想定しています。付録の出題範囲対応表が、2冊の往復の索引になります。

本書は試験の実施主体・運営事業者が作成・監修したものではありません。制度の内容は2026年9月時点の公表資料に基づく「想定」「現状案」です。受験にあたっては公式の試験案内をご確認ください。

Free Consultation

M&Aの実務について、相談だけでも構いません

相談料・着手金・月額報酬は0円です。基本合意時の中間金と成功報酬については料金体系をご覧ください。

無料相談を申し込む

Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役副社長。中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら