現場はできる。人望もある。ただ、数字が読めない。後継者育成で最も多い課題です。何から、どの順で身につけさせるかを整理します。
なぜ数字が要るのか
先に、目的を確認します。経理ができるようになる必要はありません。それは経理担当者と税理士の仕事です。
後継者に必要なのは、数字で判断できることと、数字で説明できることの2つです。
判断。この設備投資は回収できるか。この値引きは受けてよいか。人を増やせるか。
説明。金融機関に、なぜ借りたいのかを説明する。従業員に、なぜ賞与がこの水準なのかを説明する。
この2つができれば十分です。簿記の資格は要りません。
読む順序
いきなり決算書一式を渡さないでください。順序があります。
① 損益計算書。売上、原価、粗利、販管費、営業利益。自社の利益がどこから出ているかを理解させます。
② 資金繰り表。利益と現金は違う、ということ。これが最も重要です。
③ 貸借対照表。資産と負債、純資産。借入がいくらあり、何に使われているか。
④ 法人税申告書。別表の意味、税務と会計の違い。
①と②だけでも、経営判断はできます。③④は後からで構いません。
利益と現金の違いを体で覚えさせる
最も理解されにくく、最も重要な点です。
黒字でも現金が減る場面を、実際の数字で見せてください。
売掛金が増えた月。在庫を積んだ月。設備投資をした月。借入を返済した月。
「利益は出ているのに、なぜ通帳が減っているのか」——この問いに自分で答えられるようになれば、財務の基礎は身についています。
逆に、ここが分からないまま経営すると、黒字倒産の危険があります。
資金繰り表を、毎月自分で作らせるのが最も早い方法です。
月次で見る習慣をつける
年に一度の決算書だけを見ていては、身につきません。
月次試算表を、毎月、後継者に説明させてください。読ませるのではなく、説明させる。
「今月の売上はなぜ増えたのか」「この経費はなぜ上がったのか」。答えられなければ、調べさせる。
場としては、顧問税理士との月次の打ち合わせに同席させるのが効率的です。
1年続ければ、季節変動も、勘定科目の意味も、自然に分かります。
教えるのではなく、説明させる。これが要点です。
自分の部門から始める
いきなり全社の数字は難しい場合、担当している部門から始めてください。
その部門の売上、原価、人件費、粗利。自分が動かしている数字なら、実感が伴います。
そして、目標と実績の差を説明させる。なぜ届かなかったのか、何をすれば届くのか。
これができるようになったら、全社の数字に広げます。
部門別の損益が出ていない会社もあります。その場合、後継者に作らせるのが良い訓練になります。作る過程で、原価の構造が分かります。
金融機関との面談に同席させる
実践的な訓練です。借入の相談、決算の報告。これらに同席させてください。
金融機関が何を聞くか、何を見ているかが分かります。そして、説明する側の緊張感を知ります。
慣れてきたら、一部を説明させてください。「今期の見通しは、後継者から説明させます」。
金融機関にとっても、後継者の顔と考え方を知る機会になります。これは承継の際に効きます。
「まだ早い」と思っても、早い段階から同席させてください。10回同席すれば、11回目は一人でできます。
税理士との関係を引き継ぐ
見落とされやすい点です。顧問税理士との関係は、先代個人に紐づいていることがあります。
後継者が直接やり取りする関係を作らないと、承継後に相談相手がいなくなります。
方法は単純で、打ち合わせの窓口を後継者に移すことです。日程の調整、資料の準備、質問。
先代は同席しつつ、主たる話し手は後継者にする。
なお、税理士の側も世代交代を考えている場合があります。双方の後継者同士の関係を作っておくと、長く続きます。
自社株の話も、いずれする
財務の理解が進んだら、自社株の評価についても説明してください。
後継者にとって、株式をどう取得するかは自分の問題です。贈与税や相続税がいくらかかるのか、納税の資金をどうするのか。
ここを知らないまま「いずれ継げ」と言われても、実感が持てません。
税理士に依頼して、現時点の株価を算定してもらい、一緒に説明を受けるのが良い方法です。
数字を共有すると、承継が具体的な計画になります。事業承継税制も併せてご覧ください。
完璧を求めない
最後に、考え方です。
先代自身も、最初から数字が読めたわけではないはずです。必要に迫られて覚えたことが大半でしょう。
後継者にも、判断を任せれば覚えます。逆に、判断を任せずに勉強だけさせても身につきません。
したがって、小さな判断から任せてください。設備の購入、値決め、採用。数字を根拠に説明させたうえで、決めさせる。
失敗も、金額が小さいうちなら授業料です。大きくなってから初めて判断させるほうが、よほど危ない。後継者に失敗させる範囲もご覧ください。