株主名簿を確認すると、経営者ご自身に加えて配偶者の名前が入っている。中小企業では、これは非常によく見られる形です。設立時に発起人として名前を連ねた、あるいは過去の相続で取得した、といった経緯によるものですが、承継を考える段階になると、この配偶者の持分が思わぬ論点になることがあります。本稿では、配偶者が株主であることの影響と、承継前に整理しておくべき点をご説明します。

配偶者が株主になっている典型的な経緯

配偶者が自社株を保有している経緯は、おおむね次のいずれかです。

  • 設立時の名義:かつて株式会社の設立に複数の発起人が必要だった時代の名残で、配偶者や親族が名を連ねた
  • 前経営者からの相続:先代の逝去に伴い、配偶者が法定相続分として株式を取得した
  • 意図的な分散:税務上の配慮や配当の分散を目的に、生前に贈与された
  • 実質は経営者の株式:名義だけが配偶者で、出資は経営者が行った(いわゆる名義株)

このうち、承継の場面でとくに注意を要するのが4番目です。名義株は、誰が真の株主かをめぐって後から争いになり得ます。当時の払込みの記録や贈与の事実が残っていない場合、整理には手間がかかります。第三者への譲渡を検討する場面では、買い手側から必ず確認される論点でもあります。

配偶者が株主であることの実務上の影響

ご夫婦の関係が良好であれば、配偶者が株主であること自体が日常の経営に支障を来すことはほとんどありません。議決権の行使も事実上一体で扱われているのが通常でしょう。

問題が生じるのは、次の3つの場面です。

1. 相続が発生したとき。配偶者の保有分は、配偶者の相続財産として、その相続人に承継されます。後継者だけでなく、他のお子様にも分かれる可能性があります。

2. 判断能力が低下したとき。議決権の行使や株式の譲渡には、本人の意思が必要です。認知症などで判断能力が低下すると、株主総会の決議や株式の移転が実務上難しくなります。

3. 第三者への譲渡を検討するとき。M&Aでは、原則として全株式の譲渡が求められます。配偶者を含むすべての株主から譲渡の同意を得る必要があり、名義の実態が不明確だと手続きが滞ります。

いずれも、平時には表面化しない論点です。だからこそ、承継の検討を始めた段階で確かめておく価値があります。

相続が起きたとき、株式はどう動くか

経営者と配偶者の双方が株式を持っている場合、相続の順序によって株式の動き方が変わります。単純化した例で見てみましょう。

経営者が60%、配偶者が40%を保有し、お子様が2人(うち1人が後継者)というケースを考えます。まず経営者に相続が発生し、遺言がなければ、経営者の60%は遺産分割協議の対象になります。協議がまとまるまでは相続人全員の共有状態です。

その後、配偶者に相続が発生すると、配偶者が元から持っていた40%と、経営者から相続した分が、あらためて相続の対象になります。二度の相続を経る間に、株式が細かく分かれていく可能性があるわけです。

遺言がない場合の共有状態では、権利行使者を定めなければ議決権を行使できません。役員の選任すら決議できない期間が生じ得ることは、実務上の大きなリスクです。備え方は「遺言と自社株」で詳しく扱っています。

したがって、配偶者が株主である場合は、経営者ご自身の遺言だけでなく、配偶者側の遺言も併せて検討しておくことが望ましいといえます。法的な設計については弁護士にご確認ください。

承継前に整理する方法

配偶者の持分をどう扱うかは、承継の方針によって変わります。主な選択肢を挙げます。

方法内容留意点
後継者へ生前贈与配偶者から後継者へ株式を贈与する贈与税の検討が必要。評価額により負担が変わる
後継者へ売買後継者が対価を支払って取得する後継者に資金が必要。価格の適正性が論点
会社が買い取る自己株式として会社が取得する会社の資金が流出。課税関係は個人間取引と異なる
遺言で指定配偶者の遺言で後継者に相続させる他の相続人の遺留分に配慮が必要
無議決権株式に転換議決権のない種類株式に変える定款変更等の手続きと専門的な設計を要する

どの方法にも税務上の検討が伴います。とくに贈与と売買では課税される税目が異なり、価格の設定によっては想定外の課税が生じ得ます。会社が買い取る方法の詳細は「自己株式の取得(金庫株)を使った事業承継」を、無議決権株式については「種類株式・黄金株とは」をご参照ください。具体的な適用は税理士にご確認ください。

判断能力の低下という別のリスク

見落とされがちなのが、配偶者の判断能力が低下した場合の問題です。株主としての権利行使には本人の意思が必要であり、意思の確認ができなくなると、株式は事実上動かせなくなります。

この状態で第三者への譲渡を検討しようとすると、手続きが行き詰まります。成年後見制度を利用する道はありますが、後見人は本人の財産を保護する立場にあるため、株式の譲渡が本人の利益になるかという観点から慎重な判断が求められ、時間もかかります。

備えとしては、判断能力があるうちに株式を整理しておくことが基本です。加えて、家族信託(民事信託)を用いて、あらかじめ議決権の行使を託しておくという方法もあります。仕組みと注意点は「家族信託(民事信託)と事業承継」で解説しています。

なお、この論点は経営者ご本人についても同様です。急な承継への備えについては「経営者が病気になったら会社はどうなる」もあわせてご覧ください。

まとめ|名簿の確認から始める

配偶者が株主であること自体は、何ら問題のあることではありません。問題になるのは、その状態を放置したまま相続や譲渡の場面を迎えることです。

まず取り組んでいただきたいのは、株主名簿の確認です。名簿上の株主は誰か、実際の払込みは誰が行ったのか、名簿と法人税申告書別表二の記載は一致しているか。ここを確かめるだけで、整理すべき論点が見えてきます。

そのうえで、承継の方針に応じて整理の方法を選びます。親族内で承継するなら贈与や遺言、第三者へ譲渡するなら譲渡前の集約が必要です。当社では、株主構成の確認を初回のご相談の段階で必ずお伺いしています。事業承継をお考えの方へのご案内もご参照ください。

よくあるご質問

A.いわゆる名義株は、誰が真の株主かをめぐって後から争いになり得ます。第三者への譲渡を検討する場面では、買い手側から必ず確認される論点でもあります。設立時の払込みの記録、贈与の事実の有無、これまでの配当の受領状況などを確認し、実態に合わせて整理しておくことをおすすめします。法的な整理は弁護士にご相談ください。
A.必ずしも移す必要はありませんが、移さない場合は相続時にどうなるかを設計しておく必要があります。遺言で後継者に相続させる旨を定めておく、無議決権株式に変えておくといった方法があります。少なくとも「何もしないまま相続を迎える」状態は避けたいところです。
A.判断能力があるうちに株式の整理を進めることが基本です。意思の確認ができなくなると、株式の譲渡も議決権の行使も実務上難しくなります。家族信託(民事信託)を用いて議決権の行使を託しておく方法もありますが、設計には専門的な検討が必要です。早めに弁護士・税理士にご相談ください。
本稿の税務・法務に関する記載は2026年9月時点の制度に基づく一般的な解説です。税務の具体的な適用は税理士に、法務の判断は弁護士にご確認ください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら