デューデリジェンス(DD)は、買い手が対象会社を調査する手続です。費用は調査を行う買い手が負担するのが原則で、売り手が調査費用を払うわけではありません。しかし「では売り手には一切費用がかからないのか」というと、そうではありません。本稿では、DDをめぐって売り手側に生じる費用と負担を、実務に即して整理します。DDそのものの内容は「デューデリジェンス(DD)とは」をご覧ください。

原則は買い手負担|その理由

DDは、買い手が「この会社を、この価格で買ってよいか」を判断するために行う調査です。買い手の意思決定のための行為ですから、費用も買い手が負担するのが筋です。

調査は分野ごとに専門家が担います。財務・税務は公認会計士や税理士、法務は弁護士、労務は社会保険労務士や弁護士、事業面は買い手自身やコンサルタントが担当します。必要に応じて、環境や知的財産の調査が加わることもあります。

費用の水準は、対象会社の規模、調査の範囲、依頼する事務所によって大きく変わります。分野を絞れば抑えられますし、広げれば増えます。買い手側の判断で決まる部分ですので、売り手が金額を左右できるものではありません。

買い手側から見たDDの依頼と費用の考え方は「デューデリジェンスは何を頼むか」で整理しています。売り手としても、買い手が何にいくら投じているかを知っておくと、交渉の局面で理解が深まります。

売り手側に生じる費用

では、売り手側には何が生じるのか。整理すると次のとおりです。

項目内容費用の性質
資料の準備決算書、契約書、規程、名簿などの収集と整理主に社内の時間。外注すれば費用が発生
質問への回答質問リストへの回答作成、追加資料の提出経営者と経理担当者の時間
顧問税理士の関与財務・税務の質問への対応顧問契約の範囲外なら別途費用
弁護士の関与回答内容の確認、法務論点の整理依頼すれば費用が発生
登記事項証明書等の取得各種証明書の実費金額は小さい
現地調査の受け入れ従業員に気づかれない段取り、休日対応など時間と手間

金額として目立つのは顧問税理士や弁護士の関与です。とくに税理士は、DDの質問の多くが会計・税務に関わるため、実質的に対応の中心になります。顧問契約の業務範囲に含まれるのか、別途の報酬が必要なのかを、DDが始まる前に確認しておいてください。

この点は「M&Aと顧問税理士」でも触れています。急に依頼すると、通常業務との調整が必要になり、対応が遅れることもあります。

最大の費用は「時間」

請求書には現れませんが、実務上いちばん重いのは経営者と経理担当者の時間です。

DDの質問リストは、分野ごとに数十から数百の項目に及ぶことがあります。多くは資料を出せば済みますが、中には「この取引の経緯は」「なぜこの処理をしているのか」といった、経営者しか答えられない質問が含まれます。

しかも、DDは従業員に知られない形で進める必要があることが多く、対応できる人数が限られます。経理担当者に事情を話していなければ、経営者が一人で資料を集めることになります。本業を続けながらこれを行う負担は、相当なものです。

この負担を減らす最も確実な方法は、事前に資料を整えておくことです。DDが始まってから探すのと、あらかじめ揃えてあるのとでは、要する時間がまったく違います。質問リストへの答え方は「DDの質問リストへの答え方」で整理しています。

破談したときの費用の行方

DDの結果、取引が成立しないこともあります。想定外の事項が見つかった、条件が折り合わなかった——このとき、費用はどうなるのか。

買い手が負担したDD費用は、買い手の損失として残ります。売り手に請求されることは、通常はありません。ただし基本合意書に費用の分担や補償に関する定めがある場合は、その定めに従います。基本合意書の費用に関する条項は、必ず確認してください。

売り手側では、DDの対応に要した時間は戻りません。顧問税理士や弁護士に依頼した費用も、成約の有無にかかわらず発生します。そして、基本合意の時点で中間金を支払っていれば、その金額も残ります

当社の中間金は成功報酬額の10%で、成約時の成功報酬から全額を差し引きます(基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません)。ただし、基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません。破談時に残る費用の全体像は「破談したときに残る費用」で整理しています。

範囲を絞る協議はできるのか

DDの範囲は買い手が決めるものですが、協議の余地がないわけではありません。売り手側から働きかけられる点を挙げます。

  • 論点の事前共有——懸念がある事項を先に伝えておけば、調査が効率的になります
  • 資料の事前整理——揃った資料を提示できれば、調査の手戻りが減ります
  • 日程の調整——現地調査を分散させず、まとめて行うことで負担を集約する
  • 対応窓口の一本化——質問の窓口を絞ることで、情報の錯綜を防ぐ
  • 表明保証・補償での代替——調査しきれない部分を、契約上の手当てで補う

とくに論点の事前共有は有効です。隠しておいて後から見つかるより、先に伝えておくほうが、結果として信頼を損なわず、調査も短くなります。「悪い情報ほど早く出す」——これはDDに限らず、M&A全体に通じる原則です。

また、表明保証と補償による手当ては実務でよく使われます。調査で確認しきれない部分について、売り手が一定の事実を表明し、違った場合の補償を約束する形です。ただし売り手のリスクになりますので、範囲と上限は慎重に設計する必要があります。「表明保証とは」をご覧ください。

備えておくこと

DDに関する費用と負担を抑えるために、事前にできることをまとめます。

  • 資料を揃えておく——決算書3期分、契約書、規程、株主名簿、議事録、許認可
  • 顧問税理士に事情を伝える——対応の範囲と報酬を、DDが始まる前に確認する
  • 懸念事項を洗い出す——指摘されそうな点を先に把握し、説明を用意する
  • 対応できる人を決める——誰まで事情を共有するか
  • 基本合意書の費用条項を確認する——破談時の費用の扱い
  • 不成立時に残る金額を把握する——中間金と専門家費用の合計

このうち最初の項目は、譲渡を検討し始めた段階から着手できます。DDの日程が決まってから始めるのでは遅く、そのときの負担は避けられません。自社点検の観点は「売却前の自社チェックリスト」で整理しています。

当社では、ご相談の初期段階で必要となる資料の一覧をお示しし、DDに向けた準備の順序をご説明しています。ご相談の段階で費用が発生することはありません。税務・法務の判断は、税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.調査そのものの費用は、調査を行う買い手が負担するのが原則です。ただし売り手側にも、資料の準備や質問への回答に要する時間、顧問税理士や弁護士に対応を依頼した場合の費用が生じます。とくに顧問契約の業務範囲に含まれるかどうかは、DDが始まる前にご確認ください。
A.通常は請求されません。買い手が負担したDD費用は買い手の損失として残ります。ただし基本合意書に費用の分担や補償に関する定めがある場合はその定めに従いますので、条項を必ずご確認ください。売り手側では、対応に要した時間や専門家費用のほか、すでに支払った中間金が残ります。
A.範囲は買い手が決めるものですが、協議の余地はあります。懸念事項を事前に共有する、資料を整理して提示する、現地調査の日程をまとめる、といった働きかけは有効です。また、調査で確認しきれない部分を表明保証と補償で手当てする方法もありますが、売り手のリスクになりますので範囲と上限の設計にはご注意ください。

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準備の順序から、ご説明します。

必要となる資料の一覧と、DDに向けた準備の進め方をお伝えします。ご相談の段階で費用は発生しません。
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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら