財務・税務は配点20〜23%(60問なら12〜14問、うち税務が2〜3問)。 法務(17〜18%)より重く置かれています。
ただし、求められる水準は「専門家連携に必要となる財務・税務の基礎知識および 財務・税務リスクに係る知識」と定義されています。税理士の代わりをする水準ではありません。 その線引きを、まず押さえます。
科目の目的は「論点を見極めて、つなぐ」
合格者像の定義を、もう一度確認します。
財務・税務、法務の基礎的な知識をもって、M&Aプロセスを進める際に検討が必要な論点を見極め、 士業専門家と連携できる水準を想定
自分で計算を完結させる水準でも、判断を下す水準でもありません。 「これは税理士に聞くべき論点だ」と気づける水準です。
この定義は、実務上の制約とも一致します。税理士法第52条により、税務相談は無償でも税理士以外は行えません。 公表されたサンプル問題でも、「税額を無償で試算する」ことが無資格者には行えない行為として挙げられています。 「サービスだから」「概算だから」は理由になりません。
つまり、財務・税務科目は「できるようになるための知識」ではなく「できない線を知るための知識」 という性格を帯びています。
財務基礎|●が付いているのは、簿記と財務3表
資料3の「財務基礎」には、次の項目が並び、●(優先項目)が集中しています。
| 中項目 | 小項目 | 優先 |
|---|---|---|
| 簿記の基礎知識 | 簿記原理、会計帳簿、決算処理 | ● |
| 企業会計の基礎知識 | 損益計算書(PL) | ● |
| 貸借対照表(BS) | ● | |
| キャッシュ・フロー計算書(CF) | ● | |
| 会計ディスクロージャー | — | |
| 税務会計の基礎知識 | 益金と損金/課税所得と税額 | — |
| 原価計算の基礎知識 | 原価概念/原価計算の種類/原価情報の利用 | — |
| 資金管理の基礎知識 | 資金調達・運用/資金繰り・資金計画/キャッシュ・フロー管理 | — |
| 会計基準に関する基礎知識 | 中小企業会計基準/税務基準 | ●(税務基準) |
簿記と財務3表に●が集中しているのが特徴です。 DCFや組織再編税制のような難しい論点ではなく、決算書が読めるかが優先されています。
「会計基準に関する基礎知識」で税務基準に●が付いているのも、中小企業の実態に即しています。 中小企業の決算書は、税務申告を前提に作られていることが多く、 会計基準どおりの評価になっていない項目(引当金、減価償却、資産の評価など)があります。 そのずれを知っていることが、財務DDの出発点になります。
スキームと会計・税務|「初期的な検討」の段階で要る知識
資料3は、スキームの初期的な検討について財務上の留意事項と税務上の留意事項を分けて置いています。
財務側には、企業結合会計(株式譲渡・事業譲渡、合併・分割の簡易処理、取得原価の配分(PPA)、のれん)、 連結会計(簡易的な連結財務諸表の作成、中小企業での連結免除要件)、 M&Aに伴う資金調達(銀行融資・公的融資、LBOローンの基本概念)が並びます。
税務側には、スキーム別の考え方として株式譲渡(●)・事業譲渡・会社分割、 配当・自己株買い・現物分配、組織再編税制、グループ通算制度、グループ法人税制が並びます。
ここで大事なのは、これらが「スキームの初期的な検討」の段階に置かれていることです。 基本合意の前、条件の大枠を決める段階で、器によって結果が変わることを知っている必要がある、という設計です。
資料3のM&A実務側にも、スキームの初期的な検討として 株式譲渡(●)・事業譲渡(●)・会社分割(●)・第三者割当の引受・株式交換/株式移転/株式交付・合併が並びます。 実務科目と財務税務科目の両方から問われる論点です。
各工程に紐づく財務知識
資料3の財務・税務は、基礎だけでなく工程ごとの知識も求めています。いずれも●付きです。
- バリュエーションに関する財務知識(●)
- 財務DD 調査事項に関する財務知識(●)/税務DD 調査事項に関する税務知識(●)
- 最終契約 譲渡額に関する財務知識(●)
- 最終契約 表明保証に関する税務知識
税務基礎では、各種税金の基本部分・考え方(法人税、所得税〈株式譲渡課税・事業譲渡課税等〉、消費税、贈与税、相続税、 印紙税、不動産取得税、登録免許税等)に●が付き、 役員退職金に関する税務知識にも●が付いています。 ほかに源泉徴収制度、不動産評価に関する税務知識が挙がっています。
税目が広く並んでいるのは、スキームによって関係する税金が変わるためです。 株式譲渡なら株主個人の所得税、事業譲渡なら法人税と消費税、不動産が動けば不動産取得税と登録免許税—— どの税が出てくる場面かを言えることが、まず求められる水準です。
勉強の順序と、計算問題への構え
資料3の並びを踏まえると、優先順位はこうなります。
- 簿記の基礎と財務3表(●が集中)。簿記3級相当の土台がない場合は、ここを先に固める
- 税務基準と中小企業会計基準のずれ(財務DDの前提)
- スキーム別の税務の考え方(株式譲渡に●)
- 役員退職金(●。中小M&Aでは対価の受け取り方の設計に直結する)
- 組織再編税制・グループ通算制度・LBO等(●なし。全体像の把握まで)
計算問題については、公表されたサンプル問題にFCF(フリー・キャッシュ・フロー)の算出が出ています。 営業利益・減価償却費・運転資本の増減・設備投資・実効税率を使う形式です。
この種の問題で落とす原因は、難しさではなく符号(増加か減少か)と控除項目の取り違えです。 売上債権や棚卸資産の増加はキャッシュを減らし、仕入債務の減少もキャッシュを減らす—— この向きを、手を動かして確認しておくことが対策になります。
なお、本記事は一般的な制度の説明です。個別の案件の税務判断は、必ず税理士にご確認ください。
この記事について(出典と免責)
本記事は、中小企業庁が公表した資料をもとに、株式会社プラチナパートナーズが作成したものです。 本試験の実施主体・運営事業者が作成・監修・承認したものではありません。
試験の名称・科目構成・出題数・出題範囲・合格基準・実施時期等は、2026年9月時点で公表されている 検討会資料および企画競争募集要領に「想定」「現状案」として示された内容です。 試験名は資料上「中小M&A資格試験(仮称)」と表記されています。実際の試験と異なる可能性がありますので、 受験にあたっては必ず公式の試験案内をご確認ください。
本記事の法務・税務・会計に関する記述は一般的な制度の説明です。 個別の案件における判断は、必ず弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。
出典:「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(中小企業庁・第4回 中小M&A市場の改革に向けた検討会 資料2、2026年3月17日)/ 同 資料3「試験科目詳細」/ 「中小M&A資格試験実施事業」企画競争募集要領(中小企業庁、2026年3月27日)/ 中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁、2024年8月)/ 中小M&A専門人材(個人)向け 使命・倫理行動規範・知識スキルマップ をもとに当社が作成。
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この試験の勉強に使えるもの:試験範囲マップ|251項目と当社コラムの対応表で、どの項目にどの記事が対応しているか(と、当社が書けていない項目)を一覧できます。
当社取締役副社長 神垣宏康が執筆した問題集です。中小M&Aガイドライン第3版・知識スキルマップ・検討会資料「試験科目詳細」といった公表資料だけから全300問を作成し、全問に出典を明記しています。
中小M&A資格試験 合格テキスト|一次資料で体系的に学ぶ、4科目の要点
同じシリーズの基本書です(2026年10月3日刊行)。序章で制度創設の経緯・4科目と配点・合格基準・禁忌肢・CBTでの実施形式・学習プランを示し、第1章 M&A実務/第2章 中小M&A市場動向・中小企業政策/第3章 財務・税務/第4章 法務/第5章 倫理・行動規範の順に解説しています。付録は用語集・重要数値一覧・スキーム比較表・出題範囲対応表・学習記録シート。数値・期間・条文には出典を併記し、制度の数値は2026年10月1日時点です。
問題集で問われ方を確かめ、間違えた問から本書の該当節に戻る形を想定しています。付録の出題範囲対応表が、2冊の往復の索引になります。
本書は試験の実施主体・運営事業者が作成・監修したものではありません。制度の内容は2026年9月時点の公表資料に基づく「想定」「現状案」です。受験にあたっては公式の試験案内をご確認ください。