事業承継の相談の場で、生命保険が話題に上ることがよくあります。ただ「節税になるから」という理由だけで加入すると、後から目的を見失いがちです。本稿では、承継において保険が使われる場面を整理し、それぞれで何を確認すべきかをご説明します。本稿は一般的な考え方のご紹介であり、個別の商品の推奨ではありません。加入の判断は、税理士・保険の専門家にご確認のうえで行ってください。

使われるのは、3つの場面

事業承継で生命保険が検討されるのは、おおむね次の3つです。

場面何に備えるか契約の形(例)
納税資金後継者が相続税・贈与税を払う原資経営者に万一があったときに、後継者が受け取る
役員退職金先代に支給する退職金の原資会社が契約者・受取人になる
遺産分割後継者以外の相続人に渡す財産他の相続人が受け取る

目的が違えば、契約者・被保険者・受取人の組み合わせも変わります。そして、その組み合わせによって課税の扱いが変わります。「とりあえず入っておく」が最も危ういのは、この点に理由があります。

①納税資金|株式は現金化しにくい

自社株を相続した後継者が直面するのが、納税資金の問題です。相続財産の大半が自社株という会社では、評価額は大きいのに、それを売って納税することはできません。非上場株式には市場がないからです。

この不足を埋める手段として、生命保険が使われます。経営者に万一があったとき、後継者が保険金を受け取り、それを納税に充てるという設計です。

なお、事業承継税制(納税猶予)を使える場合は、そもそも納税を先送りできます。特例承継計画の提出期限は2027年9月30日、適用期限は2027年12月31日とされています。制度が使えるかどうかを先に確認したうえで、足りない部分を保険で補うという順序が合理的です(「事業承継税制(特例措置)とは」)。

②役員退職金|会社の資金として備える

先代が退任する際、役員退職金を支給することがあります。金額が大きくなるため、会社にその原資があるかが問題になります。

会社を契約者・受取人とする保険に加入しておき、退任の時期に解約返戻金を受け取って原資に充てる、という使い方がされます。

注意点が二つあります。一つは、解約返戻金は会社の益金になることです。同じ期に退職金を損金として支給すれば相殺されますが、時期がずれると法人税の負担が生じます。もう一つは、退職金には損金算入の限度があることです。不相当に高額な部分は損金になりません(「役員退職金はいくらまで損金になるか」)。

解約返戻金の扱いは「生命保険の解約返戻金と会社売却」で詳しく扱っています。

③遺産分割|後継者以外への配慮

会社を継ぐお子様に株式を集中させると、他のお子様が相続する財産は少なくなります。自社株が財産の大半を占める家庭では、この差が争いの原因になり得ます。

そこで、後継者以外の相続人を受取人とする保険に加入し、株式以外の財産を用意しておくという方法が取られます。保険金は原則として受取人固有の財産とされるため、遺産分割の対象と切り離して渡せるという特徴があります。

ただし、金額や事情によっては特別受益として扱われる可能性も指摘されています。法的な評価は事案によりますので、遺言の作成とあわせて弁護士にご相談ください(「遺留分と自社株」)。

加入の前に確認すること

共通して確認していただきたい点を挙げます。

  • 目的はどれか——納税資金か、退職金か、分割原資か。曖昧なまま入らない
  • 契約者・被保険者・受取人——組み合わせで課税の扱いが変わる
  • いつ必要になるか——必要な時期に、必要な金額が用意できる設計か
  • 保険料の負担——長期にわたる支払いが、会社や個人の資金繰りを圧迫しないか
  • 解約した場合——途中で方針が変わったとき、いくら戻るか

とくに最後の点です。承継の方針は変わり得ます。親族内承継を想定して組んだ設計が、数年後に第三者への譲渡に変わることは実際にあります。変わったときにどうなるかを、入る前に聞いておいてください。

M&Aを選んだ場合、保険はどうなるか

第三者に譲渡することになった場合、会社が契約している保険は会社の資産として引き継がれます。買い手にとって不要であれば、譲渡前に解約または名義変更するのが一般的です。

このとき、解約返戻金が会社の益金として計上されます。金額が大きければ法人税の負担が生じ、譲渡価格の交渉にも影響します。経営者個人を被保険者とする契約は、そのまま買い手に引き継ぐことが難しいため、整理の対象になります。

買収後の保険の扱いは「保険契約の名義と受取人の見直し」でも扱っています。譲渡を視野に入れる場合は、保険の整理を売却準備の項目に入れておいてください。

もうひとつ、個人で加入している保険にも目を向けてください。会社の借入の担保として、個人の保険が差し入れられていることがあります。譲渡にあたって借入が借り換えられれば解除されますが、放置すると会社を手放した後も拘束が残ります。保証や担保の整理は「経営者保証は外せるか」もあわせてご確認ください。

よくあるご質問

A.保険料の損金算入の扱いは制度改正により変わってきており、「節税」だけを目的とした加入は合理性を欠く場合があります。承継における保険の意味は、必要な時期に必要な資金を用意することにあります。目的を先に決めてから、商品を選んでください。判断は税理士にご確認ください。
A.目的が重複していたり、必要な時期と満期がずれていたりすることがあります。契約者・被保険者・受取人・満期・解約返戻金の推移を一覧にして、目的ごとに整理してみてください。承継や譲渡を検討する段階では、この棚卸しが必要になります。
A.買い手が引き継ぐかどうかによります。経営者個人を被保険者とする契約は引き継ぎが難しいため、譲渡前に整理することが多くなります。ただし解約返戻金が益金となり税負担が生じるため、時期の設計が必要です。税理士と相談のうえ決めてください。

Free Consultation

承継の方針から、ご一緒に整理します。

保険を含めた備えは、承継の方針が決まってからのほうが組みやすくなります。ご相談は無料です。
メール(info@platinumpartners.jp)でも承ります。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら